コミック

空也上人がいた [作]新井英樹 [原作]山田太一

2014年10月19日

■ずしりと腹に響く人間の業

 暴力や性を露悪的なほどに激しく描いてきた新井英樹が、山田太一の小説をマンガ化。その組み合わせにまず驚いた。
 とある“事故”が原因で特養老人ホームを辞めた27歳のヘルパー青年が、46歳のケアマネ女性の紹介で81歳の独居男性の世話をすることになる。快活ではあるがクセのある老人の言動に戸惑う青年。何かと相談するうちに青年とケアマネ女性の間には親密な空気が流れ出す。
 そんなある日、青年は老人に京都行きを頼まれる。真意を量(はか)りかねるまま指示どおりに動いて行き着いた先は、六波羅蜜寺の空也上人像だった——。
 それぞれに罪悪感や虚無感、劣等感を抱えた3人の人生が交錯する。年齢も性別も境遇も異なるからこそ浮かび上がる生と死、善と悪、愛と性、苦悩と忘却。つまりは人間の業を見つめた物語がずしりと腹に響く。
 いつになく抑制を利かせた新井の筆致は原作にかなり忠実。意外な組み合わせに思えたが、人間の醜さと尊さを率直に描くという点では、もともと相通じるものがあったのだ。印象的なのは食のシーンで、若者の生命力を象徴する旺盛な食欲が、原作よりも強調されている。
 巻末の山田×新井対談も興味深い。こうした意欲作を多数生んだ「月刊IKKI」の休刊が惜しい。
    ◇
 小学館・860円

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