コミック

ドミトリーともきんす [作]高野文子

2014年11月02日

■こんなふうに彼らと会えたら

 「私」の下宿には、ちょっと素敵(すてき)な学生さんたちが住んでいる。なぜか若き日の朝永振一郎が、湯川秀樹が、後に日本を代表する科学者となる青年たちが、私のかけたひと声でトントンと2階から下りてきて、今日も楽しいお茶の時間が始まる。たあいのないおしゃべりの中、科学に魅せられた若者たちの初々しく素朴なことばが、しばしその場の時空を支配し、思索と夢想のひとときが過ぎていく。もしこんなふうに彼らと会えたら、どんなに素敵なことか。空想のおもむくままに、幻想的な日常の時間が流れていく。
 注目の高野文子の新作は、エッセイともブックガイドともフィクションともつかない、ちょっと不思議な「語り」の支配する世界だ。科学者たちが書いた、心に残る文章が紹介され、その読み味から想像される本人たちが、学生の姿で現れる。自然への畏敬(いけい)の念が、そのまま科学する心となって、無心に勉強する彼らの言動からは、「技術」として実利を生む手前の、純粋な「科学」のよろこびが伝わってくる。その素朴さは、技術に翻弄(ほんろう)されている今の私たちに、改めていろいろなものを思い起こさせる。
 科学者たちのことばの空気に惹(ひ)かれ、原典を探しについ図書館に立ち寄ってしまいそうだ。
    ◇
中央公論新社・1296円


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