コミック

九月十月 [作]島田虎之介

2014年12月07日

■風景がドラマを予感させる

 読んで思わずため息が出た。ここまで透徹した表現に達するのに、どれだけの取捨選択があったのだろう。澄みきった絵で描かれた、さほど長くはない130ページほどの作品は、絵や言葉から余分なものを徹底的に削(そ)ぎ落とし、驚くほどシンプルな表現に自らを追い込むことで、むしろドラマの奥行きを豊かに表しており、味わい深い。線と墨ベタだけで構成された1コマ1コマの描写は、夾雑物(きょうざつぶつ)を取り除いた蒸留水のように「純度」が高く、うっかりすると抽象画かと思うほど。
 描かれるのは、「家」をめぐる物語。離婚、転居、相続など、ある家族の人生模様が、さまざまな「場所」を通じて描かれる。人の運命の変化を、著者は「場所が変わる」ことと考えているかのように、ひたすらに場所を示す。家が変わること。住む場所が変わること。それはおそらく人生が変わること。縦長の細い画面がリズミカルに並んで、読者の視野を新たな場所へといざない、家族の静かな運命の変化を浮き彫りにしていく。
 人物の絵よりも、むしろ風景の絵の方が、強くドラマを予感させる。こんなまんがには、なかなか出会えない。これまでも、個性的で優れた表現に定評のあった著者だが、新たな境地を切り開いたようだ。
    ◇
 小学館・750円

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