極楽のあまり風 ギリシア文学からの眺め 中務哲郎さん

2015年01月18日

中務哲郎さん=楠本涼撮影

■おもしろい話を紹介したい

 『吾輩は猫である』で漱石が描くギリシャの悲劇詩人アイスキュロスは、鷲(わし)がつかんでいた亀を空から落とされ、頭を砕かれて死んだ。
 この話の元をたどり、神々を不死なるもの、人間を死すべきものとする、ギリシア人の死に対する突き抜けた態度によるのでは、という。
 あるいは、仏典を漢訳した中国の僧侶を描く『高僧伝』のエピソードから、ソポクレスの悲劇『アンティゴネ』を思いおこす。ギリシャを軸に創世記、アラビアン・ナイト、荘子、古事記、キルギスの叙事詩……と古今東西へ広がるエッセー集だ。
 「小学6年の時、プラネタリウムで買った本でギリシャ神話にひかれ、高校2年でホメロスの『イリアス』の翻訳にふれ、原文で読みたいと思って」京都大に進み、西洋古典学を学んだ。1時間に10行しか読めなかった『イリアス』が20行、50行と読めるようになり、大学院へ。自分の感性に合った、おもしろい話を紹介したいと、イソップ、キケロ、ヘシオドス、ソポクレスなどを訳してきた。現在は京大名誉教授、日本西洋古典学会委員長を務める。
 「自分の主義主張ではなく、古典を伝えること。論語にある『述べて作らず』(述べて創作はせず)は、古典学者にとっての標語です」
 本の題「極楽のあまり風」は、幼いころ、暑い夏に通り庭で煮炊きをしていた母が、ふと風の吹き抜けたときに漏らしたことばだという。
 「あまり風」には、脇道へ行きがちな自らを、謙遜する意味もある。「極楽」には「ギリシャ文学を一生の仕事にできたありがたさ」と、「平和な世の中でないと勉強はできない」との思いが込められている。
    ◇
ピナケス出版・1944円

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