新書の小径(週刊朝日)

人とミルクの1万年 [著]平田昌弘

2015年01月23日

■“過酷な乳製品”がいっぱい

 ミルク。たった3文字なのにもうこれだけで美味しそう。かつ温かく豊かなイメージが広がる。著者は帯広畜産大学の先生で、バター、クリーム、ヨーグルト、チーズなど、ミルク由来の食品の歴史を書いている。私が小学校の頃(約40年前)は「嫌いな食べ物といえばチーズ」って時代だった。そんな日本も、今や幼稚園児がブルーチーズを食べる時代(こないだファミレスで幼児が食べてた)だ。
 と、私などは「乳製品は豊かさの象徴」みたいに思っていたけれど、乳製品の歴史というのは有史以来といっていいほど長く、発祥は「乾ききった過酷な土地」での「やっと入手した食品」「仕方なくできた保存食品」なのだった。「過酷な乳製品」がいっぱい紹介されている。
 シリアのアラブ系牧畜民がつくる熟成させないチーズの写真が載っている。チーズというと、カビなどで熟成された西欧式のチーズが一般的だが、これは「ツタンカーメン王の墓から発掘された乾燥肉」みたいだ。実際「カチカチに乾燥させ長期保存する凝乳」で、これもまた一種のチーズである。現在も乳をこうして保存して食べなければ生きていけない地域と人がいるわけだ。主にアジアやアラブの、家畜からとった乳をいかに加工するかということに多くのページが割かれていて、それは私たちの知る乳製品の世界とはずいぶんちがうものである。
 インドの濃縮乳マバ、なんて聞いただけですでに美味しそうである。大型の鍋に強火で終始加熱してつくるらしい。マバはインドの乳菓の土台材料で、マバに砂糖水を加えて熱し、そこにチョコレートやピスタチオで味付けするとバルフィーという乳菓になる。マバに砂糖や干しぶどうやナッツなどを入れて小さな円形にしたのがペダー。グラブ・ジャムーという乳菓もあり、強烈に甘く、「一口ニ口でお腹いっぱい感に包まれてしまう」という。乳製品ってのは、どういう環境でどうつくられても美味しそうだ。うっとり。

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