新書の小径(週刊朝日)

日本史の森をゆく 史料が語るとっておきの42話 [編]東京大学史料編纂所

2015年03月06日

■歴史家の作業に感動する

 文庫や新書で、歴史ミニ知識が、わかりやすい短いストーリーでいっぱい収録されて、一冊読むと物知りになったような気にさせられるという本はけっこうある。この本も、つくりとしてはそうなのだが、中公新書であるからもっと専門的で、東京大学史料編纂所の学者が読み込んだ資料の中からとっておきを紹介している。一冊読み終わって「物知りになれた」というよりも「自分は歴史のことなど何もわかっていなかった……もっと歴史に対しての考えを深めねば……」という気持ちになる本だった。
 といっても読みづらい、難解である、なんてことはない。一つの話がだいたい4、5ページで、まったく未知の世界のことでもするする読めてしまう。
 最初に紹介されるのが「正倉院文書は宝の山」というものだ。そりゃ正倉院の文書なら宝だろうと思って読んでいくと、その総数は1万5千点とも1万点以上ともいわれて、「役所でいらなくなってゴミになった書類」の山なのだ。だが、執筆者は「選択を受けていない廃棄書類は、有象無象の情報を抱え込んでいる」もので、捨てられるものだからこそ知られたくない生の情報が見方によっては見えてくる、という。
 当時の書類は下書きや写しのために「書類の裏側」が使われて、それぞれをまとめる時に「書類の表側」はバラバラになってしまい……などと言われると目がくらんでくる。バラバラになった大昔の書類を舐めるように読んで、何を着たか、何を食べたか、どんな病気をしたか、どんな名前で月にどのくらい働いたか、といったことまで見つけてしまう。学者はすごい、と感動する。
 他にも、今に残る地味な歴史資料から選び出した地味な事件(無名な旗本家のお家騒動とか)の地味な面白さとか、イギリスの名誉革命(17世紀)を数カ月後に江戸幕府は知らされていた、いったいどういう経路で、というような話がいっぱい載っている。

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