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二人が睦まじくいるためには [著]吉野弘

2015年03月22日

■生きる哀歓をつづった詩集

 〈二人が睦(むつ)まじくいるためには/愚かでいるほうがいい/立派すぎないほうがいい/立派すぎることは/長持ちしないことだと気付いているほうがいい〉
 これは「祝婚歌」の冒頭。結婚式によく読まれるが、どんな人間関係にも通じる内容だ。
 1926年に生まれ終戦直後に詩作を開始、500あまりの作品を生んだ詩人、吉野弘。昨年87歳で亡くなったことから改めて注目されている。今年1月27日にNHK総合「クローズアップ現代」で特集されてさらに話題に上り、「祝婚歌」ほか31編を収録した詩歌集『二人が睦まじくいるためには』は放送以降4万部増刷した。装丁も愛らしい文庫版ハードカバーの本で、読者カードには「人に贈った」「プレゼントされた」という声も。編集者の田中和雄さんは「吉野さんは平易な言葉を使い、人々の暮らしや家族に関心を寄せた“生活派”の詩人。社会の最小単位である家庭の平和が、世の中の平和に繋(つな)がると考えていたのでは」。
 番組では没後に見つかった、詩人になる決意をした21歳の頃に書かれた文章も紹介。〈人間は、その不完全を許容しつつ/愛しあふ事です〉〈善悪のいづれか一方に/その人を押し込めないことです〉。そんな思いのこもった作品はどれも、人間に対し優しさに満ちた、かつ冷静なまなざしを投げかけている。生命は自分だけでは完結できないという「生命は」、電車内で席を譲った娘の受難を見つめる「夕焼け」、バスの中から虹を見て、他人に見えて自分に見えないものと、自分に見えて他人には見えないものに思いをはせる「虹の足」等々。時には意外な角度から、生きることの哀歓を浮かび上がらせる。
 他の作品集や関連書籍も好調で、97編を収録したハルキ文庫の『吉野弘詩集』は22万3千部に達している。
    ◇
 童話屋・1350円=24刷8万7千部

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