CROSS OVER(週刊朝日)

食べる世界地図 [著]ミーナ・ホランド[訳]清水由貴子

2015年06月19日

 原題は「エディブル・アトラス」すなわち「食べられる地図帳」。その名のとおり、パラパラとめくれば、どのページもその土地土地の料理が溢れており、おいしそうな匂いが立ち上ってきそうだ。
 とはいえ、本書には実際の地図帳のように詳しい地図や現地の料理写真などが載っているわけではない。代わりに、明らかに食いしん坊である著者が、おいしいものは何一つ逃すまい、という心意気のもと、世界各地をめぐる旅で採集した数々の料理に関する文章で満たされているのである。
 著者の筆致は、軽快かつシンプルであり、食欲を煽る興奮が秘められていて、同じく食いしん坊の読者たちは、いてもたってもいられなくなるだろう。料理写真なんぞを見るよりよっぽどおなかが空いてくるのだ。
 フランス、イタリア、スペインなどのヨーロッパ諸国から、中東、アジア、アフリカ、南北アメリカまで、世界39の国と地域の料理をたっぷり紹介しており、各項の末尾にはレシピも載っている(日本の項にあるのは「うどん」に「ほうれん草のおひたし」、そして「サーモンステーキの味噌マヨソース」だ)。
 著者は本書を、各地の代表的な料理を集めた「入門書」で「単なる入口」だというが、食に興味を持ち、詳しい人でも十分に楽しめる。多くの人は、イタリアのボロネーゼやスペインのガスパチョは知っていても、ヨルダンの「マンサフ」や北インドの「ローガン・ジョシュ」に精通しているというわけではないからだ(実際に作ってみたが、いずれもため息が出るほどうまい子羊料理だった)。
 加えて著者は、トルコのオルハン・パムクやナイジェリアのチヌア・アチェベなど、当地の文豪の作品からの引用なども盛り込みつつ、食を文化的な背景から軽々と論じてみせもする。 それらを頭に入れつつ、料理を作れば(シンプルで作りやすいものが多いので安心してほしい)、キッチンは異国の香りに満たされ、現地を旅しているような気持ちになるのである。

食べる世界地図

著者:ミーナ・ホランド、清水 由貴子
出版社:エクスナレッジ

表紙画像

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