思い出す本 忘れない本

束芋さん(現代美術家)と読む『ウエスト・ウイング』 

2015年11月08日

束芋(たばいも)さん(現代美術家) 75年生まれ。アニメーション映像を使った作品などで活躍。来年2月には米サンノゼで個展を開く予定=山本和生撮影

■見えない何かに誘われる

『ウエスト・ウイング』 [著]エドワード・ゴーリー(河出書房新社・1296円)

 絵ばかりで字がないこの不思議な本に出会い、こんな作品をつくりたいって、思ったんです。他の何かの影響を受けて作品をつくるっていうことは、めったにないのに。初めてのことでした。
 作品の構想を練っていて、建物にかかわる資料をいろいろ見ていたんです。そんなとき偶然、エドワード・ゴーリーの絵本を何冊か買いました。『ウエスト・ウイング(西棟)』というタイトルだから、大きい建物の一部分を描いているということはわかる。でも、1枚1枚の絵がどうつながっているのか、そこで何が起こっているのか、わからない。わからないけど、ものすごく想像させる。
 何てことない箱が置いてあるんだけどすごく意味がある感じがしたり、人がいるのに、本当にいるのか疑わしいほどの静寂があったり。絵本だけど、私たちが普通に思う子供向けの絵本とはまったく違います。言葉にできない圧迫感と空気感。何度も手に取り、ページを繰りました。
 恐ろしいものが目に見える形で描かれてるわけじゃない。見えないところにある何かをいろいろな方向に想像させ、誘いこむ。そんな『ウエスト・ウイング』の影響を受けてつくったのは、2007年にベネチア・ビエンナーレに出品した「dolefullhouse(ドールフルハウス)」という作品です。
 ドールハウスと呼ばれるミニチュアの家と、そこに侵入してくる手や生き物を描いたアニメーションが、真っ暗な空間のなかで大きく映し出される作品です。もちろん絵本とはまったく違いますが、両方を知っている人なら、直接的な影響をかなり受けていることを見て取るかもしれません。
 「○○に影響されたでしょ」って言われるのは、本当はけっこう嫌なんです。でもこれだけは感化されたと思われても仕方ない、逃れられないなって。あんな出会いはたぶん、最初で最後です。
(構成・柏崎歓)

関連記事

ページトップへ戻る