思い出す本 忘れない本

立川談四楼さん(落語家)と読む『酒呑みの自己弁護』

2015年11月15日

立川談四楼さん(落語家) 51年生まれ。70年立川談志に入門、83年真打ちに。小説集『シャレのち曇り』ほか。『談志が死んだ』(新潮社)が文庫に。=都築和人撮影

■うまいと思えるうちは健康

『酒呑みの自己弁護』 山口瞳〈著〉 (ちくま文庫・1512円)

 立川談志の弟子になってまもないころ、師匠のかばん持ちで毎晩、銀座に通っていました。私は店の片隅でちょこんと座っているだけでしたが、ある時、師匠と飲んでいた山口瞳さんがトイレの帰りに「もう、名前はあるのかい」と声をかけてくれました。「立川寸志と申します」と答えると、「祝儀袋に書く、あの寸志かい。いい名前をつけたねえ」とほめてくれました。それ以来すっかり山口瞳ファンになりました。夕刊紙で連載が始まると(連載時は「飲酒者の自己弁護」)、先輩たちが楽屋に置いていった新聞で拾い読みしました。新聞を買うお金もなかったからですが、単行本になったときは、真っ先に買いました。
 「酒をやめたら…健康になるかもしれない。…しかし、それは、もうひとつの健康を損なってしまうのだと思わないわけにはいかない」とあります。酒飲みを励ます見事な自己弁護ですね。これを掲げて飲んでいこうと思いました。
 酒の失敗はたくさんあります。だって朝になって「どうやって帰ってきたんだろう、金は払っただろうか、暴言は吐いていないか」と心配になることがしょっちゅうですから。でも、人に聞くと、私の酒は朗らかな酒のようです。
 山口さんは、二日酔いでも「とにかく、会社を休んではいけない」と書いています。私たちも本当にひどい二日酔いの時は、高座もぼろぼろになりますが、適度な二日酔いの時は、けっこうできがいい。気をつけてしゃべろうと慎重に出ていくので、いい塩梅(あんばい)に盛り上がって、すとんと落ちがきく。テンションが高いまま始めてしまうと、歌と同じでヤマ場でキーが出ない。低く出ると盛り上がるところとぴったり重なる。だから、「適度な二日酔いがいい」。それが私の自己弁護です。一升瓶を3日で空けるのが理想ですが、うまいと2日で空きます。でも、うまいと思えるうちは健康。いつかうまくなくなる日が来ると思うと恐怖ですね。
 (構成・都築和人)

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