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ヨイ豊 [著]梶よう子

2015年11月15日

■浮世絵の命運を背負った男

 梶よう子の新作は、幕末に、浮世絵の命運を背負わされた三代歌川豊国(初代国貞)の弟子・清太郎を描いている。
 三代豊国が死に、誰が歌川派の大名跡・豊国を継ぐのかに関心が集まっていた。三代の娘婿で、二代国貞を襲名している清太郎は、何人かの版元から四代襲名を持ちかけられる。だが四十を過ぎ、自分の限界を知る清太郎は、四代襲名を躊躇(ちゅうちょ)する。
 幕末の混乱で浮世絵の売り上げは下落。清太郎は、四代襲名という宣伝効果がなければ自分の絵は売れない現実を突き付けられ、エキセントリックだが天賦の才を持つ弟弟子の八十八に嫉妬しながらも、四代になってくれればと考えるなど苦悩する。
 清太郎の立場は、有能な同僚や後輩がいるのに、分不相応な大プロジェクトを率いることを命じられた管理職に近い。重責から逃れたいのに、仕事への責任と己の矜持(きょうじ)のため懸命に踏みとどまろうとする清太郎には、共感も大きいのではないか。
 写真や印刷技術の発達が、木版印刷の浮世絵を淘汰(とうた)していくなか、清太郎はどれほど過酷な運命に直面しても庶民が愛した卑俗で猥雑(わいざつ)な江戸の美、浮世絵を守ろうとする。この展開は、効率化を重視するあまり、余裕を失いつつある現代への痛烈な批判のように思えてならない。
    ◇
 講談社・1944円

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