アンリくん、パリへ行く [絵]S・バス [文]L・クライン [訳]松浦弥太郎

2015年11月15日

 グラフィック・デザイナーの絵本というジャンルがある。ポール・ランドやブルーノ・ムナーリの作品が知られているが、それらは生粋の絵本作家の絵本とは、どこか毛色が違っている。現実を自然に描くのではなく、大きく組み換えてもう一つの世界を作り出そうとする意識の強さを感じるのだ。
 『アンリくん、パリへ行く』は、その中でも最高に近い傑作だと思う。ルブールという小さな町に住む男の子が憧れのパリを目指して歩き出す。それだけの物語だが、どの頁(ページ)を開いてもアイデアに溢(あふ)れた楽しさと美しさがある。
 「ルブールには、バスが1台しか走っていません」と記された見開きには、右頁の片隅に小さな「バスが1台」ぽつんと描かれているだけだ。つまり、見開きのほとんどは空白になっているのだ。なんて大胆なんだろう。
 一方、バスの絵でぎっしりと埋まっている頁もある。空いているのは、ちょうど「バスが1台」分だけ。その隙間に「パリにはね、ものすごくたくさんバスが走っているんだよ!」という文字が置かれている。二つの町の違いが、まさに一目でわかるようになっているのだ。
 その他にも、色々と驚くような工夫がある。例えば、この絵本には「アンリくん」を始めとして家族や友達が何人も登場する。でも、誰一人として顔がわからない。何故(なぜ)って描かれていないのだ。そんなことがあるのか、と思われるかもしれないけど本当だ。その不思議さと面白さを、実際に本を手にして確かめていただきたい。
    ◇
 (スペースシャワーネットワーク・2592円)

アンリくん、パリへ行く (P-Vine Books)

著者:ソール・バス、レオノール・クライン、松浦弥太郎
出版社:スペースシャワーネットワーク

表紙画像

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