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新居浜—日本 〈工都〉の美術史と地方創生 [編]新居浜市美術館

2015年11月22日

真鍋博「兵隊」(1954年、新居浜市立郷土美術館蔵)

 黒田清輝や浅井忠、岸田劉生の作品があり、戦後は小磯良平、「実験工房」や未来画の真鍋博までが載っている。
 ごく正統的な日本近代美術史の作品集のようだが、愛媛県・新居浜市美術館の開館記念展(12月20日まで)の図録として編まれた本書は、日本の近代美術を新居浜が支えたと唱えるような内容だ。
 大風呂敷に映るかもしれないが、荒唐無稽なわけではない。ポイントは別子銅山。住友家が鉱山を開き、新居浜は工業都市として発展する。
 住友家は、この地などが生んだ富をもとに黒田や浅井を支援し、岸田の作品も収蔵する。工都では文化活動も盛んで、地元の洋画研究所には小磯らが講師で招かれている。
 前衛芸術集団「実験工房」の中心メンバー北代省三は旧制の新居浜高等工業学校で学んだし、真鍋の父親は住友金属鉱山勤務。講習会で小磯に教わってもいる。新居浜つながりで、これだけのメンバーが集まるという驚きがある。
 文化に関して、中央の動向が地方に及ぶという構図を描きがちだが、美術表現の背後にも日本の近代化を支えた産業があったと思えば、新居浜から日本を描き出すことも可能なわけだ。大都市の繁栄を、地方の活動が支えていることは、東日本大震災の折にも改めて気づかされた。
 真鍋作品は未来画のほか、1950年代の社会派のモノトーンの絵画も載っている。確かな構図と、浜田知明のような訴求力。真鍋の未来画にもこんな古層があるように、日本の近代美術にもまだ見ぬ層があるに違いない。
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 (国書刊行会・2592円)

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