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九番目の雲 [著]山岡ヒロアキ

2015年11月22日

■自分の人生と再び向き合う

 「ねぇ、パパはさ、入道雲がぐんぐん迫ってくるのを見たことある?」
 八歳の息子、和也から、主人公の吾郎は不意に尋ねられる。そりゃ、あるさ、と答えたものの、さらに話しかけようとした和也の言葉を途中で遮って、吾郎は先に湯船から立ち上がる。何やらしょぼんとした息子を気にしつつも、吾郎はその理由を追求して息子と向き合おうとはしない。
 会社でも、家庭でも、吾郎はそんなふうにして物事をやり過ごしてきた。けれど、ここにきて見過ごしには出来ない事態が次々と吾郎に降りかかる。突然病に倒れた一人暮らしの母。公私ともに追い詰められ、崖っぷちの同期の友……。
 やがて、以前から問題の多かったパワハラ上司が、目に余る悪意を同期に向けた時、吾郎はとうとう腹を括(くく)って、立ち上がる。上司の心をへし折らなければ、それを許した自分自身の心が折れてしまう、と。そして、吾郎は、ある行動に出る——。
 本来は男気のある吾郎が、ぼんくらのように過ごしてきた理由が明らかになるくだりもいいのだが、冒頭の息子の問いの意味が明らかになるシーンがとりわけ光る。デビュー作の粗削りさはあるものの、楽しみな作家の登場であることは、間違いない。
    ◇
 講談社・1512円

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