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おっかなの晩―船宿若狭屋あやかし話 [著]折口真喜子

2015年12月13日

■負の感情、克服するやさしさ

 初の単行本が、与謝蕪村が怪異と遭遇する『踊る猫』だった著者の新作は、船宿の女将(おかみ)が重要な働きをする幻想譚(たん)である。
 朋輩(ほうばい)に狐(きつね)が憑(つ)いているとの噂(うわさ)を流され、客が減った遊女を描く「狐憑き」は、ヒロインが直面する運命の変転が面白い。村人に虐げられていた若者が、未来を見る儀式を行った直後に姿を消す表題作は、若者が何を見たかが判然とせず、その不気味さがスリルを盛り上げていた。
 この他にも、船の上から少年が消える「海へ」、水神様に嫁ぐ少女の物語「江戸の夢」など、全八編が収録されている。
 人が死ぬと、三途(さんず)の川を渡ってあの世へ行くと信じられてきた。著者は現世と異界をつなぐ川の役割を巧みに使いながら、考えれば恐ろしい怪談から、心温まる人情話、伝奇小説の古典ともいえる能や歌舞伎を題材にしたもの、さらに思わず笑ってしまうオチがある作品までバラエティー豊かな短編を紡いでおり、確かな手腕が味わえる。
 不可思議な現象は、人の心の奥底に潜む悪意を浮かび上がらせることもある。ただ著者は、怪異や心の闇に直面しても泰然としている女将を通して、負の感情を克服する力や、生きることの素晴らしさに目を向けようとしている。このやさしさに触れると、温かい気分になれる。
    ◇
 東京創元社・1512円

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