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東山動植物園オフィシャルゴリラ写真集―シャバーニ! [監修]東山動植物園

2015年12月13日

「シャバーニ!」から

 擬人化が、人間のイメージを、人間以外の存在に覆い被(かぶ)せることだとすれば、名古屋の東山動植物園の人気者、ゴリラのシャバーニは、まちがいなく擬人化されている。
 名前を与えられているのもさることながら、写真集の各ページにしるされた歴史上の名言、至言は、無声映画の弁士のように、シャバーニのふとした表情や身振りに意味の深みを与えずにはいない。
 たとえば、ダンテの『神曲』の一節として知られる「お前の道を進め。人には勝手なことを言わせておけ」という言葉が添えられると、シャバーニの表情が、意志的で内向的なものに見え始めるのだ。
 もちろん、引用された言葉とゴリラの表情が、ぴたりと対応するわけもないのだが、眺めているうちに、それらしく見えてくるからおもしろい。
 とはいえ、この写真集に興味をそそられたのは、擬人化の妙味ゆえではない。関心を覚えたきっかけは、本書の帯に、川崎フロンターレの大久保嘉人の言葉として大書された「完敗」の二文字であった。この二文字が、本書の人気の秘密を告げていると思われたのだ。現在の人間に求めて得がたい何ものかを、ひとびとはシャバーニに求めているのである。
 踏み込んでいえば、人間の尊厳を、ゴリラになぞらえて想(おも)い描いているかに思われるのだが、それが人気の理由だとすれば、この写真集を単純に擬人化の書と呼ぶわけにはいかない。人気の秘密は、「擬猿化」にこそあるというべきかもしれないからだ。
    ◇
 東山動植物園監修、扶桑社・1080円

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