再読 こんな時 こんな本

書店員に聞く 古代中国を読む

2016年01月09日

 人物像の魅力でしょうか、スケールの大きさゆえでしょうか、古代中国に風趣を感じる人は少なくないようです。折しも東京・上野の東京国立博物館では2月21日まで「始皇帝と大兵馬俑(へいばよう)」展が開かれています。古代中国、読んでみませんか。

■よむよむ花小金井駅前店・矢部潤子さんに聞く
(1)三国志 [著]羅貫中 [編訳]小川環樹、武部利男
(2)楊家将 [著]北方謙三
(3)古代中国 [著]貝塚茂樹、伊藤道治
(4)天空の舟 小説・伊尹伝 [著]宮城谷昌光

■王朝興亡のロマン
 2世紀末、乱れつつある後漢を舞台にした歴史物語が羅貫中の『三国志演義』だ。歴史書の『三国志』を元に、さまざまな挿話を盛り込んで血湧き肉躍る物語に仕上げた。日本で『三国志』といえば、その多くが『演義』をベースにしている。
 「日本ではいつの時代でも『三国志』は大人気」と矢部さん。「虚実取り混ぜたものもあるし、紀行風にしたものもあります。これまでに何百点も出ていると思います」
 あまたある中、(1)『三国志』の特徴は『三国志演義』を忠実に訳していること。「ただし抄訳です。枝葉の人物をそぎ落とし、中心的な人物だけで書いています」と矢部さんは言う。もともとは中高校生向きなのでふりがなが振ってある。読みやすいだけではなく、「大人も十分に楽しめます。『三国志』はビジネス書としても読まれてきています。大人の一般教養としても一度は読んでおくべきかな、と思います」。
 (2)『楊家将』は10世紀の物語なので古代よりもぐっと新しい。矢部さんがこの本を挙げた理由は、「時代を味わうよりも任侠(にんきょう)ものとして楽しんでほしい」と思ったから。
 「最後の戦いに挑むところなど、涙があふれてきます。中国もののファンというより、北方先生のハードボイルドが好きな人向きかも」
 それともう一つ、「上下巻だけなので、北方先生の中国ものの中では短いんです。読みやすいのでよく売れました」。
 矢部さんが書店で人文書担当になったとき、古代中国について分からないことがあるたびに開いていたのが(3)『古代中国』。「ロングセラーであり、定番。古代中国を知ろうと思ったらこれです」
 サブタイトルに「原始・殷周・春秋戦国」とある通り、この本が書くのはずばり古代。遺跡の紹介や伝説を踏まえ、王朝の実相、その興亡へと筆を進めていく。
 こんなくだりがある。
 「紀元前一五五〇年頃、成湯大乙(せいとうたいいつ)に率いられた殷の王朝が、おそらく河南省内の黄河流域で成立し」
 「大乙は、伊尹(いいん)という賢臣を宰相としてこれに政治を委ねたが、みずからも徳をそなえた人物であったと伝えられている」
 記者のお薦めは、そのくだりを壮大な物語として描いた(4)『天空の舟 小説・伊尹伝』。夏王朝の末期に生まれた摯(し)(のちの伊尹)の運命を縦軸に、想像力を飛翔(ひしょう)させてさまざまな人間模様を書き込んでいく。
 夏王桀(けつ)、正妃末嬉(ばっき)、忠臣関龍逢、湯后、昆吾伯、葛人顎……。魅力的な人物を交差させながら、ドラマは王朝交代の革命へと進む。熟れきった実が落ちるように倒壊へと向かう夏王朝。上げ潮の勢いで版図を広げる小国の商(殷)。作者の想像力が歴史の闇を埋め、読者を3500年前のロマンへ引き込んでいく。
    ◇
■(聴くなら)フィリップ・ベイリー「チャイニーズ・ウォール」
 古代中国と言えば「万里の長城」。その建造は、古くは秦の時代に始まったとされる。その名を冠したアルバム「チャイニーズ・ウォール」は「アース・ウィンド・アンド・ファイア」のボーカリストであるフィリップ・ベイリーが、「ジェネシス」のフィル・コリンズのプロデュースで1984年に出したアルバムだ。
 収録曲としては、前述の2人によるデュエットでヒットした「イージー・ラヴァー」が有名だが、表題曲も悠久の時の流れを感じさせる曲調が秀逸だ。
 でも、「万里の長城を歩く。落ちるコインを見つめながら……」などと歌う詞は難解というか、イメージの羅列のよう。荘子の「胡蝶(こちょう)の夢」や、清代の古典「紅楼夢」を連想させる言葉が並ぶ歌詞は、直訳すると漢詩を思わせる趣もあっておもしろい。
 アルバムは2013年に高品質CD盤(ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル 税抜き1800円)で再発売され、今も良い音で楽しめる。(歩)

関連記事

ページトップへ戻る