エンタメ

江ノ島西浦写真館 [著]三上延

2016年01月10日

■表情や人生捉え、美しい叙情

 優しく繊細なミステリである。青春小説としてのきらめきもあるし、家族小説としてのセピア色に輝く魅力もある。カメラに写しとるように人々の表情と人生を捉えている。表層だけではなく、その裏側までしかと見通しているところがいい。
 物語は、新年早々、桂木繭が江ノ島を訪れる場面から始まる。昨秋亡くなった祖母の遺品整理で、家は百年間営業を続けた写真館だった。繭も祖母に教わりカメラに夢中になり、大学でも芸術学部に入ったものの、ある出来事で写真家を諦めた。
 遺品の中には「未渡し写真」の缶があり、繭は青年・真鳥とともに、一つ一つの写真に秘められた謎を明らかにしていく。やがてそれは、繭自身の過去へとつながることになる。
 時代も場所も異なるのに同じ青年が写っている四枚の写真、繭が大学入学式の時に撮られた写真、土産物屋の主人が探るキャビネットの謎、二人の男性が並ぶ記念写真の秘密など、四話形式であるけれど、どれもゆるやかに、だが主題的には緊密に支え合う内容になっている。
 正直言って小粒で、挿話の劇的な連繋(れんけい)や大胆な展開などを求めたい気持ちはある。それでも落ち着いた艶(つや)やかな叙情は美しく、心地よく、読む者の胸でいつまでも温かく息づくことだろう。
    ◇
 光文社・1296円

関連記事

ページトップへ戻る