視線

バナナじけん [著]高畠那生

2016年01月10日

「あ、バナナが ひとつ おちましたよ。」
 『バナナじけん』の一行目だ。ここから何かが始まる、って雰囲気がよく出ている。続きはこうだ。
「そこへ さるが ひょろひょろ あるいてきて みちにおちている バナナをみつけました。
どうすると おもう?」
 その「さる」は、長い手の先に何故(なぜ)か買い物カゴを持っている。一方、手前に落ちている「バナナ」は、なんだかとても大きく見える。「さる」とほとんど変わらないサイズじゃないか。遠近感のせいという以上の迫力だ。「どうすると おもう?」って言葉が期待を盛り上げる。
 読み進むと、その期待を超えた展開の凄(すご)さに驚きながら感心してしまう。めちゃくちゃナンセンス。なのに、なんとも云(い)えない心地よさがあるのは、どうしてだろう。
 うーん、わからない。では、逆に考えてみよう。ナンセンスじゃないって、どういうことなのか。例えば、それは合理的ってことだ。お金や出世や愛を獲得するという目的のために適切な行動をとる。現実の我々は、まさにそうやって生きている。
 でも、ナンセンス絵本の中の住人は違う。お金も出世も愛も求めない。その世界はまったく別の行動原理で動いている。例えば「バナナ」。
 そんな彼らの姿を見る時、私は自由な気持ちになれる。『バナナじけん』のめちゃくちゃな展開が、原始的な色彩が、本当の世界はもっと柔らかくて大きいってことを、合理性に縛られた私に思い出させてくれるのだ。
     ◇
 BL出版・1404円

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