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吉野太平記(上・下) [著]武内涼

2016年01月17日

■天皇制問う重厚なテーマも

 「妖草師」シリーズが、『この時代小説がすごい! 2016年版』の文庫書き下ろし部門第1位に輝いた武内涼。待望の新作は、室町幕府の打倒を目論(もくろ)む後南朝と、その防止に動く朝廷の忍びの死闘を描いている。
 後南朝の軍師で、忍び楠木党の棟梁(とうりょう)でもある楠木不雪(ふせつ)は、吉野の山中に潜伏して土一揆を扇動。さらに計画の障害になる朝廷の忍び村雲党を襲撃する。
 不祥事を起こし村雲党を追われていた兵庫は、不雪に多くの仲間を殺されたことで、一党を率いることになる。後南朝との戦争を避けたい朝廷は、将軍義政の正室・日野富子の妹で、聡明(そうめい)な幸子を和平交渉の使者に決め、その護衛を兵庫に命じる。
 山深い吉野で、特殊な武器と忍術を使う村雲党と楠木党が繰り広げる迫力の戦闘には圧倒されるだろう。忍びの戦いは天皇親政を目指す不雪と、天皇と政治の分離が日本の伝統と考える幸子の対立を浮き彫りにする。これは、天皇とは何かという現代も議論が続く問題に切り込んでおり、重厚なテーマが光る。
 幸子は少数意見を尊重する方針で後南朝との融和を模索し、幸子の想いを知った兵庫は、戦争を未然に防ぐことの重要性を悟る。この展開は、憎しみの連鎖を絶ち、平和をもたらす方法を教えてくれるのである。
    ◇
 ハルキ文庫・各734円

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