ニュースの本棚

ドローン 井上孝司さんが選ぶ本

2016年01月24日

飛行実演が行われたドローン=愛知県長久手市の愛・地球博記念公園

■歯止めかけつつ信頼と前進を
 近年、「ドローン」というと連想されるのは主に、空撮用のマルチコプターだ。宅配など、他の用途にも版図を広げようとしていることから、「新しい産業の創出につながる」と期待する向きもあるのはご存じの通りだ。ドローンに限らず、目新しい技術や製品が登場したときの反応は、「礼賛」と「反発」の両極端に分かれることが少なくない。
 ドローンとは虫の羽音を意味する言葉で、無人機全般を指す。もともと、航空界では軍用の無人標的機(対空訓練の的)を指していたが、技術の進歩により、的から偵察、そして攻撃へと版図を広げた。『無人暗殺機 ドローンの誕生』では、偵察機として造られた「プレデター」が無人攻撃機に変貌(へんぼう)する過程を描き出している。
 空の上だけでなく陸海など他の領域でも、さまざまな無人の乗り物の開発が進む。たとえば無人艇による港湾警備や機雷捜索、無人車両による物資輸送や爆発物処理などだ。

■無人機≠ロボット
 ただ、こうした無人機をロボット兵器と呼ぶことには、語弊がある。コンピューターが勝手に意思決定できるような誤解を生みかねないが、プレデターのような無人攻撃機では、目標の識別や交戦の指令は地上のオペレーターが遠隔操作で行っているからだ。
 離着陸も地上のオペレーターが行う場合があるし、悪天候や強風に直面して、苦労しながら操縦することもある。飛行中に悪天候に遭遇して、雲の切れ間を探して右往左往させられることもある。いくら技術が進化しても、自然現象には逆らえない。このあたりの話は、『ハンター・キラー』で米空軍の無人機オペレーター経験者が詳しく述べている。
 昨年ごろから、空撮用マルチコプターが風に流されて、不時着したり行方不明になったりする事故が多発している。航空法の規制から外れたところで一気に普及が進んだ結果として、未熟練者が扱う事例が増えて、事故などのトラブルが相次いだ。誰でも手軽に購入できるからといって、誰でも手軽に扱えるとは限らない。
 それを受けて昨年、航空法が改正された。「規制は産業創出の芽を摘む」との批判があるが空を飛ぶものは安全が第一。野放しにして事故や事件を多発させる方が、よほど産業創出の足を引っ張る。規制緩和は実績と信頼を積み上げてからだ。

■社会との軋轢避け
 技術の進化によって新しい種類の製品・技術が出現すると、社会との間で摩擦や軋轢(あつれき)を起こすことがままある。特に、自動化・無人化・サイバー空間が関わるものに、その傾向が強い。『ロボット兵士の戦争』は、無人化装備が増えている「新しい戦争」の形が既存の法制度や社会の意識との間で不整合を引き起こす問題を指摘している。
 最近、自動車の自動運転技術が話題になっている。しかし、いきなり自動運転に踏み込むのではなく、衝突防止や車線逸脱防止といった安全機能に始まり、ドライバーが主体的に運転する形を保ちながら段階を踏んで実績を積み上げつつある。これは社会との摩擦を避け、信頼できる自動運転技術を実現するために必要なプロセスだ。
 新しい技術や製品を拒絶して「昔は良かった」というだけでは進歩がない。無人機についても同様で、人間が最後の歯止めとして関わりつつ、社会的な慣熟過程と実績の積み上げを経ての前進が必要ではないか。
    ◇
いのうえ・こうじ テクニカルライター 66年生まれ。著書に『ドローンの世紀』など。

無人暗殺機 ドローンの誕生

著者:リチャード ウィッテル、Richard Whittle、赤根 洋子
出版社:文藝春秋

表紙画像

関連記事

ページトップへ戻る