エンタメ

いつかの人質 [著]芦沢央

2016年01月24日

■誘拐と失踪、すれちがう愛

 3歳の時に連れ去られた宮下愛子は、ほどなく自宅には戻れたものの、その時の怪我(けが)で視力を失ってしまう。それでも、両親の、とりわけ母親の庇護(ひご)のもと、健やかに育っていた愛子だったが、初めて親の介助なしに友人同士で出かけたアイドルのコンサート会場から、またしても何者かに連れ去られてしまう。折しも、それは、12年前、愛子を連れ去った犯人の娘で、今は漫画家となっている江間優奈が、夫の礼遠(れおん)とともに宮下家を訪れた後のことだった。
 愛子の誘拐事件を追う過程で、優奈が失踪していることが明らかになる。物語は、愛子を誘拐した犯人捜し、礼遠の優奈捜しを並行して描いていく。二つの謎がたどり着く先は、何処(どこ)なのか。
 メインのストーリーはミステリーなのだが、根底にあるのは、愛子と家族の物語であり、優奈と礼遠の夫婦の物語である。とりわけ、端からは恵まれたカップルに見えていた優奈と礼遠の、その実は“すれちがってしまう愛”が、息苦しいまでに迫ってくる。創作からの呪縛、夢からの呪縛から逃げたい優奈と、優奈の真意をはかれずに、優奈を追い求める礼遠……。
 丁寧な人物造形と、緻密(ちみつ)なストーリー。読み始めるとページを繰る手が止まらなくなる一冊だ。
    ◇
 角川書店・1944円

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