CROSS OVER(週刊朝日)

明治剣狼伝 西郷暗殺指令 [著]新美健

2016年01月26日

■刀に代わり銃が新時代を作る

 長年にわたり活況を呈している歴史・時代小説のジャンルでは、次々と実力派の新人が登場している。第7回角川春樹小説賞特別賞を受賞した新美健も、そのひとりだ。明治を舞台にした骨太の時代エンターテインメントで、鮮やかなデビューを果たしたのである。
 西南戦争が継続中の、明治10年。元薩摩藩士で、現在は陸軍少佐として新銃の開発に取り組んでいる村田経芳は、福地源一郎(桜痴)から、意外なミッションを命じられる。西南戦争の叛乱士族側の首魁である西郷隆盛を、救出してほしいというのだ。どうやら新政府側にも、いろいろな思惑があるらしい。
 大阪を経て堺に向かった経芳は、警視徴募隊の藤田五郎(元新選組隊士の斎藤一)や、元庄内藩のふたり、鉄砲をよく使う松藏老人とお森という女性を加え、救出隊を結成。過去を抱えたメンバーを率いて九州の地を目指すのだった。
 タイトルに“西郷暗殺指令”とあるように、本書は西郷暗殺を扱っている。しかし表面上で進行しているのは、西郷救出だ。どこにストーリーが向かっているのか。誰が暗殺者になるのか。読者の興味を掻き立てながら、ラストまで翻弄する作者の手腕は、新人離れしたものがある。
 しかも主人公が、村田経芳だ。日本軍が最初に採用した国産小銃「村田銃」の開発者として知られる経芳だが、東郷隆の『狙うて候』が目に付くくらいで、ほとんど物語の主人公になることはなかった。そのような人物を作者は深く彫り込んだ。また彼を中心に、さまざまな立場と信念の人間を絡ませ、銃と刀のアクションをふんだんに盛り込んだのである。ここに本書の、大きな魅力が存在しているのだ。
 さらに終盤で経芳が、ある人物とガン・ファイトを繰り広げるのだが、ここで物語が一気にスケール・アップ。西郷隆盛たちは日本という国が変わるための贄であり、銃が新時代の象徴となることが明らかになるのだ。デビュー作で、歴史と世界を大胆に捉える、その意気や良し。とんでもない新人が現れたものである。

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