再読 こんな時 こんな本

書店員に聞く ああ!受験

2016年02月13日

 「4月はいちばん残酷な月」という言葉を残したのは英国の詩人。この冬、栄冠をつかみ損ねた受験生親子なら「いいえ、2月がいちばん残酷な月」と言い換えるかもしれません。受験について、さまざまな角度から考える本を集めました。

■八重洲ブックセンター八重洲本店・渡辺るりさんに聞く
(1)下剋上(げこくじょう)受験 [著]桜井信一
(2)森に眠る魚 [著]角田光代
(3)受験脳の作り方 [著]池谷裕二
(4)学ぶ意欲の心理学 [著]市川伸一

■人間関係も壊すイベント
 (1)『下剋上(げこくじょう)受験』の「下剋上」の意味は、サブタイトルを読めばわかる。〈両親は中卒 それでも娘は最難関中学を目指した!〉
 筆者は、「代々中卒」の家系で、「身内のどこを見渡しても学歴なんてものは見当たらない」。この「負のスパイラル」を変えるためには、大規模な「流路変更工事が必要だ」と考える。娘を東京の最難関私立女子校に入学させたいと決心してから受験までの日々を描いた実話だ。
 まず最初に「一番頭のいい学校」とネットで検索するような「中学受験の知識ゼロ」からのスタート。渡辺さんは「無謀とも思える挑戦の壮絶な記録ですが、ユーモアを交えた文章が面白い。でも、すごいのは、塾にも通わず、父親が娘と一緒に同じ問題を解き、同じだけ勉強したこと」という。
 (2)『森に眠る魚』は、都内の文教地区を舞台にした、同じ年頃の子を持つ主婦5人の物語である。友情を分かち合えていたはずの彼女たち。だが、小学校受験というイベントが絡むことで、嫉妬や疑念が芽生え、関係にひびが入っていく。
 「ささいな日常の積み重ねで徐々に狂い始めていく人間関係の難しさ。疑心暗鬼や不信感、孤独など女性の心理描写がリアルすぎて怖い」(渡辺さん)。良い学校に行かせることが子供の幸せではない、我が子は伸び伸びと育てたい、と考えていた母親たちが、「お受験」という渦に巻き込まれ、翻弄(ほんろう)されていく様子を生々しく描いている。
 (3)『受験脳の作り方』はもともと高校生向けに書かれた本。「勉強で重要なのは復習」とよく言われる理由を、著者は「忘れる速さが遅くなる」からと説明する。ではいつ復習したら効率的なのか? 脳のなかで情報を取捨選択する「海馬」をうまくダマすためには、学習した翌日に1回目、その1週間後に2回目、2回目の復習から2週間後に3回目、3回目の復習から1カ月後に4回目、と2カ月かけて繰り返すと、「海馬はその情報を必要な記憶だと判定」するという。「高校生の頃にこの本があればよかった。でも社会人にも十分役立つ」(渡辺さん)
 記者のお薦めは(4)『学ぶ意欲の心理学』。どうしたら子供が勉強する気になるのか。受験に限らず、子供が勉強したくなる動機づけの難しさがよく指摘される。認知心理学・教育心理学を専門とする著者は、その動機を、「勉強自体が面白いから」(充実志向)、「親や先生に認めてもらいたいから」(関係志向)、「成績がいいとお小遣いをもらえるから」(報酬志向)など6分類し、考えていく。それはそのまま、大人の仕事へのモチベーションにも重なっている。「外からの動機づけ」を主張する精神科医・和田秀樹氏や、「学力低下」に警鐘を鳴らしてきた教育社会学者・苅谷剛彦氏との討論が面白い。
    ◇
■(再読 聴くなら)ヴァン・ヘイレン「ライト・ナウ」
 ヴァン・ヘイレンのベストアルバム「グレイテスト・ヒッツ」は1996年に発表された。同年12月、高校3年だった記者はセンター試験を目前に控え、重い足取りで予備校へ向かう途中、イヤホンから聞こえる「ライト・ナウ」の歌詞に突然、現実味を感じた。
 「なぜまた1日延ばす? 問題が山積し、行く手を阻む。解決のための一歩を踏み出せ」「未来を描くのか。過去を懐かしむのか。この逆境をチャンスに変えろ」「何をためらう? 今なんだ!」
 歌うのは大ヒット曲「ジャンプ」などで知られる初代(そして現在)のボーカル、デイビッド・リー・ロスではなく、2代目サミー・ヘイガー。本作で2人を聞き比べると、デイビッドの曲は反抗的で色気もあるが、当時の自分は根が真面目だったのか、無意識のうちに、高音域で体育会系精神をさわやかに歌うサミーの曲に傾倒していた。浪人時代もお世話になって、志望校に合格しました。
 ワーナーミュージック・ジャパン発売、税込み1296円。(毬)

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