エンタメ

ハンニバル戦争 [著]佐藤賢一

2016年02月14日

■凡庸さを認め、敵からも学ぶ

 カルタゴの将軍ハンニバルがイタリア半島を攻めたハンニバル戦争(第二次ポエニ戦争)。
 タイトルだけを見ると、その戦術が現代でも研究されている天才ハンニバルが活躍する物語に思えるかもしれない。ところが著者は、ハンニバルに手玉に取られたローマの貴族スキピオの視点で物語を進めている。
 前線でカルタゴと戦ったスキピオは、隠れる場所がないはずの平原に伏兵が現れたり、ヌミディア騎兵の機動力を活(い)かして動きの遅い重装歩兵を翻弄(ほんろう)したりするハンニバルの巧みな戦術の前に、敗北を重ねていく。
 第一次ポエニ戦争に勝利したローマは、カルタゴを侮り、ハンニバルが繰り出す新戦術に対応できなかった。ようやく反撃に出るのは、スキピオが5年の歳月をかけ、ハンニバルの傭兵(ようへい)術を研究した後のことである。
 ローマの傲慢(ごうまん)さは、経済大国として繁栄を謳歌(おうか)しているうちに、新興国から追い上げられ窮地に陥った現代の日本を彷彿(ほうふつ)させる。それだけに、自分の凡庸さを認め、敵からも謙虚に学んで危機から脱しようとするスキピオには、学ぶことも多い。
 やがて天才のハンニバルが、凡庸な理由で戦争を始めた事実が明かされる。この凡庸さは普遍的な問題であり、戦争の本質に迫ったテーマも印象に残る。
    ◇
 中央公論新社・1998円

関連記事

ページトップへ戻る