視線

モードデザイナーの家 [著]イヴァン・テレスチェンコ [訳]神奈川夏子

2016年02月14日

(C)Ivan Terestchenko

 「何かが創(つく)られる現場」が好きである。クリエイターが仕事をする場所、滞在した宿、住んでいた家は、しばしば私の旅の目的地となる。そして目下憧れているのは、いつの日か「モードデザイナーの家」を訪問すること。本書を手にして、その憧れがいや増した。
 写真家のイヴァン・テレスチェンコは二十年にわたってさまざまなモードデザイナーの家の内部を撮り続けてきた。ココ・シャネル、イヴ・サンローラン、ジョルジオ・アルマーニ、クリスチャン・ルブタン……。モード界の伝説と化した巨星たち、そしていまなお第一線で活躍しているデザイナーたちの私的な空間。それらはまるでよく練った構図の静物画のようだ。そこかしこに家の主たるクリエイターの息吹が感じられ、透徹した美学がちりばめられている。
 「シャネル・ファッションといわれるのは嫌い。シャネル、とは何よりもまずスタイルのことを指すのよ」。シャネル自身の箴言(しんげん)通り、彼女の家はどこまでもシャネルスタイルが貫かれている。サンローランの部屋の中にあるオブジェは、さりげなく置かれているようであっても、すべてに秩序があり、絶妙な均衡が保たれている。作者はサンローランの部屋を撮影するとき、ある置物の位置をずらそうとした。すると立ち会っていたインテリアデザイナーに「何ひとつ手を触れちゃだめよ」と言われた。それが作者の生涯を通しての姿勢となった。写真から滲(にじ)み出るデザイナーたちの存在感。静かに圧倒される。デザイナーたちのクリエイションの源がそこここに潜む部屋。いつかのぞいてみたい。
    ◇
 エクスナレッジ・4104円

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