CROSS OVER(週刊朝日)

だし生活、はじめました。 [著]梅津有希子

2016年02月09日

■いいことずくめのだし生活

 もし「素敵でていねいな暮らし」とやらをアピールしているエッセイストが、声高に毎日きちんとだしを取ることを主張したら、読み手は身構え、忙しい生活のなかでそれが無理な理由を100個でも挙げてみせるかもしれない。しかし、本書は違う。多忙な現代の読者にぐっと寄り添って「だし生活」の楽しさを語るので、読んでいてすぐにでも試してみたくなる。
 著者自身、だしを取るのは年に2回だけ(年越しそばとお雑煮)で、それ以外は顆粒だしとだしパックに頼っていたという。その一方で、だしを取っていないとまっとうな暮らしをしていないことになるんじゃないか、と負い目を感じてきたそうだ。
 そんな著者が、新婚の頃以来、久しぶりにだしを取って味噌汁を作るシーンが印象的だ。
〈あぁぁぁぁ、なんていい香り……〉〈おぉ、だしをとるだけで人はこんなにも幸せな気持ちになれるのか〉
 感動し、せめて週1回はだしを取ることを決意するのだが、それさえ挫折してしまう。理由はだしを取るのに必要なザルとボウルがキッチンのシンクを占領してやる気が出ないから。微妙な理由だが、なんとなく気持ちはわかる。
 小さなストレーナーを買うことで問題を解消し、著者は無事にだしを取る生活に乗り出す。その結果は、料理がシンプルかつおいしくなる、減塩効果がある、太りにくくなるなど、いいことずくめだ。
 さらにだしを極めるべく、「分とく山」の野崎洋光、「イル・ギオットーネ」の笹島保弘、「町家四川 星月夜」の遠藤浄ら名だたる料理人に学び、東京の水はだしが出にくく昆布は2日浸けてもいいことや、干ししいたけのだしは味が濃いので他のだしにごく少量加えること、中華料理で鶏がらスープの代わりに濃いかつおだしを使えることなど、だし使いの幅が広がるプロの技も聞き出している。
 現在の著者のだしの取り方は合理的かつ画期的なもの。詳細は本を読んで欲しいが、これなら誰でも、だし生活、はじめられるに違いない。

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