再読 こんな時 こんな本

書店員に聞く 子育てという営み

2016年02月20日

 子どもを持って約20年。わかったのは、肩の荷を一つ下ろせば、また別の荷を背負うことになるのが親だということです。「どこかで間違った?」と後ろ向きになることもしばしば。気持ちの支えやヒントが見つかる本を探してみました。

■三省堂名古屋高島屋店・福澤いづみさんに聞く
(1)子どもへのまなざし [著]佐々木正美
(2)子育てが終わらない [著]小島貴子、斎藤環
(3)月の砂漠をさばさばと [著]北村薫、おーなり由子絵
(4)それでも家族を愛してる [著]ポー・ブロンソン [訳]桐谷知未

■正解あってもなくても
 (1)『子どもへのまなざし』の著者は児童精神科医。母親や保育関係者との勉強会の講演録をまとめたもので出版から58刷りを重ねる。子どもに関わる各地の施設、機関での見聞や臨床経験に裏打ちされた内容が、読みやすい語り口で記されている。
 「乳幼児期こそが人格形成の基礎」と筆者は位置づける。その時期に「全面的な受容」を経験して初めて子どもは他人を信頼し、自分を肯定できるようになる。「過保護」を心配する必要はなく「幼い子どもが望むことはなにをどれだけやってあげても大丈夫」なのだ。
 「親自身が自分の楽しみを生活の中心にするという習慣が身についている」世代のひとりとして、耳の痛い部分もある。が、「『人間』の本当の幸福は、相手の幸せのために自分が生かされていることが、感じられるときに味わえるものです。このことは本当に本当です」といった、著者の熱意がほとばしるような文章は、素直に響く。「その通り、とひざを打つことばかり。子育てに正解があるかどうかわからないが、これが正解だと思える言葉が詰まっている」と福澤さん。
 「『30歳成人』時代の家族論」の副題がつく(2)『子育てが終わらない』は、大学生の就職支援専門家と「ひきこもり」に詳しい精神科医の対談。思春期以降どこかでつまずき、30になっても自立できない「子ども」の存在は珍しくなくなった。日本だけでなく、30歳までの子育ては「全世界的なもの」という。
 社会に出て行けない子どもに、対処するには子育てのタイムリミットを設定し、親子関係、(親の)夫婦関係を見直すメンテナンスが必要、と著者らは一致する。「育て方を間違った」と自分を責めて子どもを抱え込んでいては展望は開けない。
 (3)『月の砂漠をさばさばと』は二人暮らしの少女と母親の日常の物語12編を収める。9歳のさきちゃんのお母さんは「お話を作る人」(作家)で、毎晩「できたてのお話」を聞かせてくれる。さきちゃんも想像力豊かな女の子。平凡な世界が楽しくふくらむやりとりに、読後感が温かい。「親もまた子どもによって育てられると思える物語」と福澤さん。
 (4)『それでも家族を愛してる』は米国人作家が現代の家族像に迫ろうと19家族に取材したノンフィクション。離婚、10代の妊娠、貧困、精神の病、アルコール依存。さまざまな問題が落とす影は日本以上に濃く、必ずしもハッピーエンドでもない。
 著者自身が書くように「秘訣(ひけつ)や技術を教えてはくれない」が、ドラマを見るように引き込まれて読むうち、こんな一節に力づけられる。「子どもに完璧な幼少時代を送らせようとしなくてもいいのかもしれない。……親自身の問題を隠すより、それを切り抜ける姿を子どもに見せるべきなのかもしれない」
    ◇
■(聴くなら)エリック・クラプトン「ティアーズ・イン・ヘブン」
 父の愛を知らずに育った男は、浮気相手との間に息子が生まれて混乱した。酒浸りだった男は、子に恥じぬ父親になろうと酒は断ったが、息子をどう愛していいか分からずに母子の元を去る。女は息子と男の未来を案じ、時々男を訪ねては息子に引き合わせた。
 ある日、男は4歳になっていた息子とサーカス見物に出かける。初めて二人きりで過ごす中で男は、突然父性に目覚める。女は喜び、親子3人で動物園に行く約束を交わすのだが、その当日に信じられないことが起こる。なんと息子が、高層マンションの窓から転落死してしまうのだ。
 これは実話だ。男の名はエリック・クラプトン。再び酒や薬に溺れるのではないかと周囲が心配した悲しみのどん底で、彼は鎮魂と再生の歌を紡いだ。それが「ティアーズ・イン・ヘブン」だ。
 その、心に迫る歌声は「アンプラグド~アコースティック・クラプトン」(ワーナーミュージック・ジャパン、税抜き1500円)で聴くことができる。(歩)

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