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IoT(アイオーティー)(モノのインターネット) 小林雅一さんが選ぶ本

2016年02月21日

グーグルの自動運転車はIoTの一例。最新の地図や交通情報をネットから入手して走る=同社提供

■全てがネットにつながる時代
 1969年の誕生以来、私たちの暮らしや仕事に必須となったインターネット。この便利なツールが今、新たなフェーズに突入しようとしている。それが「Internet of Things(IoT)」、つまり全てのモノがインターネットにつながる時代だ。
 IoTの源流はシリコンバレーの思想家、マーク・ワイザー氏が91年に発表した論文にある。同氏は「最も深遠なテクノロジーは日常生活に織り込まれ、私たちの目には見えなくなる」と述べ、これを「ユビキタス・コンピューティング(遍在する情報処理環境)」と呼んだ。
 たとえばペンや時計、あるいは衣服や眼鏡など見慣れた日用品が極小のコンピューター・プロセッサーを内蔵し、これらが通信ネットワークとつながることにより、互いに連係して私たちに奉仕するようになる。これがユビキタス・コンピューティングのイメージだが、当初から企画倒れ的に挫折しては、しばらくすると、また盛り上がることの繰り返しだった。

■難しい「標準化」
 IoTはこの流れの中で生まれてきたトレンドだが、最近では特に産業的な側面に注目が集まっている。たとえば『2030年のIoT』では、「ヘルスケア」「電力・ガス」から「農業」「ペット」に至るまで、産業別IoTの動向が包括的に紹介されている。項目ごとに「IoT導入の課題」が指摘されており、これがユビキタスの時代から今日のIoTに至るまで、この種のビジョンを実現する難しさを示している。
 中でも手強(てごわ)いのは標準化だ。たとえばIoTの一例として「外出先から帰りがけにスマホで自宅のエアコンをつける」状況が考えられるが、ユーザーがそれらの製品を同一ブランドで統一することは珍しい。むしろ、よくあるのは「A社製のエアコンをB社製のスマホで操作する」ケースだが、そのためには技術の標準化が必要だ。しかしメーカー各社の利害が衝突してなかなか実現できない。
 これを克服する上で参考になるのが、『Webの創成 World Wide Webはいかにして生まれどこに向かうのか』(高橋徹監訳、毎日コミュニケーションズ・絶版)。ウェブの発明者、ティム・バーナーズリー氏が世界中の大学や企業などをまとめあげ、困難な標準化を成し遂げていく過程が語られる。

■情報漏洩の脅威
 もう一つの難題はセキュリティだろう。IoTのように、全てのモノがインターネットにつながると、これらを通してハッカー攻撃や情報漏洩(ろうえい)などの脅威が増す。『IoTは日本企業への警告である』では、日本企業がそれらの脅威に対抗して安全なIoTビジネスを展開していくための原則を「セキュリティの十戒」として紹介している。
 最後に、IoTはSFとの親和性も高い。たとえば2002年に映画化された『マイノリティ・リポート』(原作は56年)では、登場人物たちが街中のデジタル看板の前を通ると、その人によって広告の内容が変わっていた。あれはIoTの先駆けだ。また同作品には、未来の犯罪者を予知して逮捕に結びつける「プレコグ」と呼ばれる超能力者も登場。これは現実世界なら、IoTに集まるビッグデータを解析して未来を予想するAI(人工知能)だろうか。SFではプレコグが悪用されて不気味な管理社会を招くが、現実のAIがそうならないことを願う。
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 こばやし・まさかず KDDI総研リサーチフェロー 63年生まれ。専門は、ITやライフ・サイエンスなど先端技術の動向調査。近著に『AIの衝撃 人工知能は人類の敵か』など。

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