視線

せかいいちのねこ [著]ヒグチユウコ

2016年02月21日

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 主人公のニャンコは猫のぬいぐるみ。でも、本物の猫になりたいと願っている。そのために旅に出る。
 途中で、たくさんの猫たちと出会うのだが、どの猫にも微(かす)かな謎がある。或(あ)る猫は帽子で顔を隠している。或る猫はやけにニボシを欲しがる。或る猫は犬を連れて旅をしている。或る猫は耳に不思議な形の傷がある。
 そういえば、と思う。現実の猫たちも皆、どこか謎めいている。また、私たちが出会う他者という存在は、いつも完全には理解しきれない怖さを秘めている。『せかいいちのねこ』の中には、我々が生きている世界の感触が反映されていると思う。
 例えば、耳に不思議な形の傷があるのは避妊手術済みの野良猫の証(あかし)、とわかる読者にはわかる。けれど、知らない人もたくさんいるだろう。
 もちろん、作中のニャンコには理解できない。でも、そばにあった花を摘んで、その耳につけてあげるのだ。すると、相手は自分が心配されたことがわかって「ありがとう」と微笑(ほほえ)む。わからないなりに優しくしようとする。そこに胸を打たれる。わかるよりも大事なことがあるんじゃないか。
 世界の全てを理解することは誰にもできない。自分の願いが叶(かな)うかどうかもわからない。だからこそ、緊張したり、混乱したりしながらも、できるだけ優しく、なるべく勇気を出して生きるしかない。そんな、当たり前だけど普段は忘れていることを、この作品は、理屈ではなく、空気の感触として思い出させてくれる。
    ◇
 白泉社・1512円

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