CROSS OVER(週刊朝日)

触楽入門 [著]テクタイル(仲谷正史、筧康明、三原聡一郎、南澤孝太)

2016年02月16日

■技術を使って触覚を楽しむ

 元日はもちろん映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を観に行った。初めての4DXで期待は高まったが、おおっと思えたのは最初に椅子が傾いて下降感覚が得られた一瞬だけ。後は風や水が顔に吹きつけられても粉雪が散っても偽物感が強くて気持ちは冷めるばかり。あれではとても満足できないよ。だから後日、本書を読みながらつい未来の4DXを空想してしまった。
 若手研究者が集まって書かれた本書は、まず前半が触覚の話題のカタログだ。軍手を填めるとメリヤス編みが触感を増幅するので自動車のボディのわずかな歪みも触ってわかるようになるとか、水のしっとりとした触感は指紋の微細な凹凸の奥までなじむ感じだといった、短くてもはっとする事例が出てくる。視覚障害者の描いた水泳の絵に、手で掻いた多数の水の流れが表現されているのを見て、改めて触感の意味に気づかされる。
 著者らは技術を使って触覚の価値を拡張する活動に取り組んでおり、その成果を紹介した後半になると臨場感が増してくる。触感を微細な振動に変換して転送する装置を使えば、空の紙コップにシュワシュワとした炭酸飲料水が注がれる感覚が伝わる。しかも炭酸水を注ぐコップにそれ自身の振動を戻したときは、いつも以上のシュワシュワ感で飲めるのだという。これはぜひ体験してみたい。アスリートやタップダンサーの触感を転送する試みも興味深い。床を打ち鳴らすときの小気味よい硬さと反発の感覚が未来の映画館で体験できたらどんなに面白いだろう。一見静かなシーンでも自然と動悸が速まり、指先に清冽な水流の感覚が迸ったら!
 人は旅の想い出に葉っぱや石を持ち帰る。「触感のお土産は、私がそこにいた、ということの証拠になるものです」と記す感性は瑞々しくまっすぐで、そのまま著者らの伸びしろのようだ。いま人々は映画鑑賞の記念に模型や音楽を手元に置く。だがもし映画の一瞬の触感を切り取って持ち帰れたら? そんな未来にはきっと帰宅後の団欒も、きらきらと忘れがたいものになる。

触楽入門

著者:仲谷 正史、筧 康明、三原 聡一郎、南澤 孝太、是澤 ゆうこ
出版社:朝日出版社

表紙画像

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