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デビッド・ボウイ サエキけんぞうさんが選ぶ本

2016年02月28日

ジギー・スターダスト時代に初来日したデビッド・ボウイ(右)。山本寛斎と衣装合わせ=1973年

■仮面の下の本音と躍る笑顔
 今年1月に69歳で没したデビッド・ボウイは、ロックの中でビートルズに次ぎ影響力を持ったかもしれない。売り上げなら他の者もいるが、コンセプトの記号的な多様さや、黒人音楽を白人音楽とつなげた音楽的功績など、影響力はあまりにも大きい。その総体をつかもうと数ある書籍が食い下がるが、1冊だけで彼を知ることは不可能だ。
 英国人による『デヴィッド・ボウイ コンプリート・ワークス』は現地の人間しか知り得ないエピソードを多数含んだ評伝だ。歌舞伎に影響を受けたメイクを施したグラム・ロック時代の姿を始め千変万化なポートレートを満載する。異星からやってきた架空のキャラクター「ジギー」を始め、ボウイはロックにキャラという文化を持ち込み、メイクと共に英国のニューロマンティクスのバンド群や日本のビジュアル系バンドに大きな影響をもたらした。それら英日の「ボウイの子供たち」は米国へ多大な文化侵攻を果たし、経済効果上の役割も大きかった。そんなボウイはどうできあがったのか? パントマイムのリンゼイ・ケンプの影響や片目の視力を失った理由など、臨場感のあるエピソードが楽しめる。

■真摯な音楽分析
 彼の死後、日本のレコード店にはファンが殺到、ボウイの棚が空になった。ルックスに目を奪われがちだが、ファンを走らせる理由は、ボウイのどの時代の音楽も2016年の今、リアルに響くという衝撃だった。ボウイの本音は音楽そのものにある。それを真摯(しんし)に分析した文章は恐らく日本の出版物に一番多く存在する。ロック雑誌の草分け「ミュージックライフ」の伝統を継ぐ『CROSSBEAT Special Edition』は70年代の貴重な写真やインタビューも含み、各アルバム評を読みやすくまとめ、入門用にも適した一冊。各来日公演の曲目を始め、思い出のシーンも満載。情報量では世界屈指かもしれない。『レコード・コレクターズ』3月号ボウイ特集(ミュージック・マガジン・823円)は、音楽分析に優れ、坂本龍一との対談の再録が嬉(うれ)しい。両誌とも日本ロック評論の水準を高めていて心強い。
 しかしそれだけの言葉を弄(ろう)してもまだ全体像をつかむのが難しいのは、彼のリップサービス、その仮面性の高さゆえだ。特に作品の自己解説はうのみにはできない。ファンを惹(ひ)きつけるための詭弁(きべん)を多く使うのだ。

■70年代、撮影秘話
 そんなボウイにも素顔がある。それを捉えたエッセイ集が、ボウイのスタイリストを長く務めた高橋靖子の『時をかけるヤッコさん』だ。70年代前半のライブで衣装替え黒衣を務めた体験は貴重だ。2013年「ザ・ネクスト・デイ」に再起用された77年の代表作「ヒーローズ」ジャケットの撮影秘話もたまらない。おどけてブルゾンを色々な着方で試す描写やスナップ写真に、愛くるしい青年ボウイの笑顔が躍る。そんな甘やかなエピソードは「チェンジス」などの優しいメロディに共鳴し、音楽を盛り上げる。造り上げた仮面の下に、多感な人間性を秘めていたことを示唆する。
 高橋との写真の撮影者はTレックスやYMOの写真でも有名な鋤田(すきた)正義である。彼の語り下ろし『THE SHOOT MUST GO ON』(K&Bパブリッシャーズ・2376円)は、日本人カメラマンがボウイを始めとする様々なスターと渡り合い、世界的に記憶されるイメージを造り出した現場を回想する。
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さえき・けんぞう ミュージシャン サエキ氏は58年生まれ。作詞家、音楽ユニット「ハルメンズ」「パール兄弟」の一員。著書に『ロックとメディア社会』など。

デヴィッド・ボウイ コンプリート・ワークス

著者:パオロ・ヒューイット、大田黒奉之
出版社:ティー・オーエンタテインメント

表紙画像

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