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震災復興 塩崎賢明さんが選ぶ本

2016年03月06日

正月を前に、帰還困難区域にある自宅にしめ飾りを取り付ける男性=2015年12月22日

■始まっていない「新しい生活」
 私たちはいま震災復興の回顧と展望の境目に立っている。しかし、「集中復興期間」が終わるからといって5年を節目と呼んでいいだろうか。予算をつけそれに従ってハコモノができたとしても、被災者一人ひとりにとっては、あの日からの時間は連続しており、復興の実体としての新しい生活はまだ始まったばかりか、始まってさえいないのである。
 東北の復興で、素朴に疑問に思うのは、これまでに25兆円もの資金を投じながら、自宅に戻れない人、自宅を確保できない人が20万人もおり、震災関連死が3400人にのぼるという、この現実のギャップである。
 どこかがおかしい。復興予算の大半がハード事業に費やされ、被災地外でも1兆円以上が使われたという事実を私たちは知っているが、では当の被災地では被災者救済のまともな事業がなされているのだろうか。
 阪神・淡路大震災でも使われた「創造的復興」というスローガンのもとで、東北では何が起こっているのか。古川美穂『東北ショック・ドクトリン』は被災地で繰り広げられる遺伝子研究、水産特区、空港民営化、カジノ構想などを鋭くえぐり出す。ナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』(岩波書店)が暴いた、戦争や災害の混乱に乗じて暴利をむさぼる「惨事便乗型開発手法」が、まさに東北の地で展開されていると告発する。

■不均等な「復興」
 他方、東京電力の原発事故による被災者の行く末は津波被災地以上に見通し不透明である。国・東電は除染を行い、線量を下げ、避難指示を解除することによって、帰還=賠償終了へと導こうとしているが、そのもとで被災者はどういう状況に置かれているのか。
 個々の被災者は様々な事情を抱え、生活再建は極めて複雑であるが、起こっている事態を一言でいえば、不均等な「復興」であり、被災者の分断である。『原発災害はなぜ不均等な復興をもたらすのか』は大学研究者と被災者を支援する弁護士集団の共同作業による著作で、原発被災者・被災地が置かれている複雑な現状を多面的に描いている。
 津波・原発被災地のいずれにおいても、明るい未来が見えるとはいいがたい。果たしてこのままのやり方でいいのか、それとも、復興の枠組み自体に問題があったのではないか。

■科学的根拠なく
 そうした疑問に真正面から立ち向かっているのが齊藤誠『震災復興の政治経済学』である。著者は、3年間の共同研究を通し、震災当初におけるいくつもの錯誤と、科学的根拠なく拙速に重要政策を決定した誤りがこの間の復興の根底にあることをほぼ公表された客観データのみを駆使しながら、実証していく。
 主要論点の一つは津波被害を過大評価し、過大な復興予算を組むことによって、実際のニーズに比べて大掛かりな防潮堤やかさ上げ道路の建設、過剰な産業用地や農地、宅地を生み出す集団移転事業などが行われたことである。
 第2に、原発事故における初動対応の誤りとそれによる被害の深刻化を過小評価したことによる今日の混迷である。復興途中に生じた政権交代が復興政策にどのように関連したかも説得力を持って分析している。専門書ではあるが、重要な論点を含んでおり、得られる収穫は読書の苦労に報いて余りある。
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 ◇しおざき・よしみつ 立命館大学教授・神戸大学名誉教授 47年生まれ。専門は都市計画・住宅政策。大船渡市復興計画推進委員会委員長。『復興〈災害〉』『住宅復興とコミュニティ』など。

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