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西洋菓子店プティ・フール [著]千早茜

2016年03月06日

■苦くて甘い人生の機微重ねて

 相変わらず五感を開いた艶(つや)やかな世界であり、ケーキを食べたくなる小説でもある。従来の千早茜と比べると毒が少ないけれど、そのぶん温かさと優しさが前面に出て親しみがある。
 下町の洋菓子店を舞台にした連作である。女性菓子職人の亜樹が女友達との濃密な時間を振り返る「グロゼイユ」、夫の不倫に揺れ動く妻が自らの気持ちを噛(か)みしめる「カラメル」、ネイリストが美と片恋を追い求めてやまない「ロゼ」、亜樹の婚約者の弁護士が一つの結論を出す「ショコラ」など六編。
 リレー小説の秀作『からまる』『あとかた』と比べると緩やかな繋(つな)がりであるが、それでも一人ひとりの思いが菓子と結びつき、菓子作りと心情が詳(つまび)らかにされ、人生の機微と重ねられる。生きることとは何かを菓子作りを通して見つめるあたり、実に細やかで巧み。女は欲望に正直、男は意気地なし、引き算を知らない臆病者など箴言(しんげん)がちりばめられているのもいい。
 結末は、千早茜の小説とは思えないほど明るい。もっと深く痛いところまで突き刺してほしいと思わないでもないが、毒を秘めた「カラメル」を真ん中において、各短編の細部には苦い人生観照があり、全体の甘さをひきたたせて旨(うま)みを引き出している。まさに小説のスイーツだ。
    ◇
 文芸春秋・1458円

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