再読 こんな時 こんな本

書店員に聞く あの日から5年

2016年03月12日

 東日本大震災が起きたあの日から、5年が経ちましたが、「一区切り」なんて、とても言えません。多くの問題が解決されないままです。あの日のことを忘れないために、そして未来に進むために、ページをめくってみませんか。

■よむよむ花小金井駅前店・矢部潤子さんに聞く
(1)原子爆弾から原子力発電まで 原子力のことがわかる本 [監修]舘野淳
(2)前へ! 東日本大震災と戦った無名戦士たちの記録 [著]麻生幾
(3)地震イツモノート キモチの防災マニュアル [編]地震イツモプロジェクト
(4)プロメテウスの罠(わな) 明かされなかった福島原発事故の真実 [著]朝日新聞特別報道部

■忘れず 学び 未来へ進む
 「原子炉建屋」や「除染」という言葉を3・11前に知っていた人は、どれほどいただろうか。東京電力福島第一原発で起きた未曽有の事故では真偽不明の情報が錯綜(さくそう)。記者も含め、原発について何も知らないことを痛感した人も多かったのではないだろうか。
 (1)『原子爆弾から原子力発電まで 原子力のことがわかる本』は、子ども向けに原爆や原発の仕組みをわかりやすく解説した本だが、大人が読んでも勉強になる。「震災前は児童書の棚に置いてあり、年に1、2冊売れる程度でしたが、原発事故後に話題の本売り場に移したところ、月50冊ほど売れるように。それだけ皆さん原発のことを知りたいと思っていたのでしょう」と矢部さん。当時の店内には原発や津波、防災についての入門書、解説書があふれたという。
 (2)『前へ! 東日本大震災と戦った無名戦士たちの記録』は震災後、真っ先に現場に入り、原発事故や人命救助に立ち向かった自衛隊員や国土交通省職員、警察官らを実名で描いたノンフィクション。公安警察や自衛隊ものを得意とする著者の筆致が歯切れ良い。矢部さんは「この本を読むと元気と涙があふれる」と推す。震災対応をめぐって、ときに批判される国や官僚だが、組織の中の一人一人は懸命に動いていたことが迫ってくる。
 広告などでおなじみの寄藤文平さんのイラストがわかりやすい(3)『地震イツモノート キモチの防災マニュアル』は、阪神・淡路大震災の被災者167人へのアンケートをもとにつくった防災マニュアル。「下着はタオルで代用した」「ガラスが散乱した床に毛布を敷いて歩いた」など何が役立ったか、必要だったか被災者の体験談が集めてある。
 本書は文庫版が2010年に出版された。その翌年、東日本大震災が起きた。著者は「防災が、地震のための特別な努力ではなく、私たちのライフスタイルの中に自然に横たわるものであってほしい」と「地震モシモノート」ではなく「地震イツモノート」としたという。その言葉の重みが伝わってくる。矢部さんも「モノの備えだけでなくキモチの面も準備が必要。この小さな文庫を読むことが防災の一歩かも」と話す。
 記者のお薦めは手前みそで恐縮だが(4)『プロメテウスの罠(わな) 明かされなかった福島原発事故の真実』を。朝日新聞で11年10月に始まり、今も続く連載を単行本化したシリーズの第1巻だ。福島の地を汚してしまった原発事故はなぜ起きたのか。事故時から現在まで、住民たちはどんな目に遭わされ、どう闘ってきたのか。住民、放射線衛生学者、時の首相……。一章ごとにそれぞれの視点から事故が描かれる。ディテールにこだわった描写を読むうちに、いつしか原発事故の全体像が立体化されて見えてくる。
    ◇
■(聴くなら)山下達郎「希望という名の光」
 楽曲のイメージは、生み出した人間の意図が形作るもののはずだ。だが、時として聴き手の思いをのみ込み、別のイメージをまとって独り歩きを始める歌がある。山下達郎の歌う「希望という名の光」は、そのひとつだ。
 元は、サンゴ養殖に奮闘する男を描いた映画「てぃだかんかん~海とサンゴと小さな奇跡~」の主題歌として書き下ろされた曲だった。発表されたのは東日本大震災の1年前。「リーマン・ショック後の不況に沈む人々を、何とか勇気づけたい」。そんな意図で作られ、歌われた曲だった。
 ところが震災後、この楽曲は全国のラジオ局で盛んにオンエアされるようになり、いつの間にか、被災者たちに寄り添い励ます歌として広く認知されるようになっていった。
 山下が「作り手すら想像しないニュアンスや響きが加わった」と語る一曲は、アルバム「Ray Of Hope」(ワーナーミュージック・ジャパン、税込み3240円)に収められている。(歩)

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