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家康、江戸を建てる [著]門井慶喜

2016年03月13日

■未来切り開くベンチャー精神

 天正18(1590)年。徳川家康は、関白の豊臣秀吉から関東八カ国への移封を打診される。そこは240万石の広大な領土ながら、低湿地が多く、使える土地は少なかった。家臣団は猛反対するが、家康は居城を江戸に決め町造(づく)りに着手する。
 『東京帝大叡古教授』が直木賞候補になった門井慶喜の新作は、江戸を大都市に変えた技術官僚に着目した連作集である。
 湿地対策のため、利根川の流れを変える大工事を行う伊奈忠次を主人公にした「流れを変える」。神田上水の建設に尽力した大久保藤五郎と内田六次郎を描く「飲み水を引く」は、当時の土木工事を迫力いっぱいに活写した技術小説となっている。
 秀吉の下で大判を作る後藤家に雇われていた庄三郎が、自分を認めてくれた家康のため、新通貨の小判を武器に通貨戦争を仕掛ける「金貨を延べる」は、経済小説としても秀逸である。
 著者は、敵を倒す武将ではなく、無名でも能力があれば家臣を抜擢(ばってき)した家康の内政能力に着目している。主君の期待に応えようとする主人公たちも、常識にとらわれない発想で難事業に取り組み、未来を切り開くベンチャー精神を持っているのだ。
 逆境に負けず挑戦を続けた家康とその家臣の物語は、閉塞(へいそく)感に苦しむ現代人の希望になる。
    ◇
 祥伝社・1944円

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