思い出す本 忘れない本

紺野美沙子さん(女優)と読む『定本 育児の百科』(上・中・下)

2016年03月13日

紺野美沙子さん(女優) 東京都生まれ。17~19日、東京都千代田区の紀尾井ホールで舞台「歌行燈」を公演=早坂元興撮影

■寄り添い、背中押してくれた

『定本 育児の百科』(上・中・下) [著]松田道雄 (岩波文庫・上、中、下各1080円)

 20歳の息子がいますが、長い間、私の本棚に鎮座してきたのが、この本です。出産祝いとして頂きました。冒頭に「一度に全部よむにはおよばない」とある通り、生後一月経った時、半年経った時、1歳になった時、小学校に行くようになった時と、折々に百科を開いてきました。そして「順調だな」とか「ちょっと遅れているな」とか、著者の松田先生にお世話になってきました。
 まだ息子が1歳に満たない頃、突然高い熱が出て困りました。6カ月から7カ月までの赤ちゃんがかかりやすい病気として「突発性発疹」という欄がありました。どういう経緯でその病気になるか、どれくらいで治っていくものなのかという解説はもちろんあるんですが、この本がふつうの医学書と違うところは「急をききつけて、お姑(しゅうとめ)さんが登場してくる」ってことまで書いてあるんです。我が家でも「まさに! まさに登場して来た!」ってなって、その時は思わず笑っちゃいましたね。
 小児ぜんそくでしたが、「まわりのおとなが、心配そうな顔をして介抱したり」しない方がいいって書いてあるんです。「少し気温があがったら、せいぜい戸外にだして鍛錬する」と。近所の公園に行ったり、女優生命をなげうって夏でも真っ黒になりながら近所のプールに行ったりしていました。いま振り返るといい時間だったなって思いますね。
 いまの方が育児情報はたくさんあるけれど、いつでもどんな情報を信じたらいいんだろうってお母さんたちは悩むと思うんですね。この本はお母さんの立場に寄り添って、そっと背中を押してくれる本なんです。
 今度、泉鏡花の名作『歌行燈(あんどん)』を、朗読とお芝居、能を組み合わせて表現する舞台をします。そのクライマックスは、我が子の出世を願って自分の命をかける母親の姿を能で演じるシーンです。変わらない母親の愛情を感じますね。
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 (構成・塩原賢)

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