CROSS OVER(週刊朝日)

食糧と人類―飢餓を克服した大増産の文明史 [著]ルース・ドフリース [訳]小川敏子

2016年03月07日

■食糧増産がもたらす危機

 ある生物が環境に適合し、その数を増やせば、やがて餌不足に陥って個体数を減らす。その後は増減を繰り返しつつ、生態系において適切な数の範囲に収まるのが通常だ。
 ところが人は違う。人口増加がもたらした食糧不足や飢餓という問題を自ら解決してきたのだ。しかし、それによってさらに人口が増えれば、再度食糧問題が生じることになる。人類は増えるたびにより深刻な食糧危機に直面し、それをなんとか克服しては増殖してきたのである。
 科学技術の発展はその傾向を後押しし、1800年に9億5千万人だった世界の人口は、わずか200年ほどで70億人に達した。世界はまさに人口爆発のただ中にある。
 本書はそんな人類と食糧の関わりを俯瞰した一冊。アイルランドのじゃがいも飢饉、地球と月の誕生、フランクリン隊の北極探検、幸島の「芋を洗うニホンザル」、メンデルによる「エンドウの実験」、南米のグアノ(堆積した海鳥の糞)をめぐる利権争いと交易、ハーバー・ボッシュ法による窒素固定、DDT、緑の革命など様々な興味深い話題にふれつつ、人類の食糧増産史、そしてそれがもたらした現在の危機についてわかりやすく叙述する。
 現在、人口の劇的な増加にかかわらず飢餓人口は減り、低所得層の肥満、高カロリーがもたらす病気、環境破壊や生物多様性の喪失など、経験したことのない新たな危機が人類を脅かしている。
 著者は、2007年5月、人類は「運命的な日」を迎えたと言う。その日をもって、都市居住者が史上初めて多数派を占めるようになったのだ。
 これは人類が狩猟採集生活から農耕牧畜生活に移行したことに匹敵する大転換であり、さらなる多くの問題を生じさせる可能性がある。農業に従事する少数の食糧生産者と都市に住む多数の食糧消費者で構成される世界は、これまでとまったく異なるものになるかもしれない。
 日々の食事を楽しむ際、本書が教えてくれる壮大な人類の物語と予測不能な食の未来に思いを馳せるのも悪くないだろう。

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