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放送法 永田浩三さんが選ぶ本

2016年03月20日

放送法関連の質問に答える高市早苗総務相=2月15日

■自律を保障、報道は気概持って
 先月、金平茂紀さんや岸井成格(しげただ)さんら看板キャスターが、総務相が政治的に公平でない放送局に対して電波停止を命ずる可能性があると語ったことへの抗議を行った。大臣発言の背景には、報道内容に神経をとがらせてきた安倍政権のメディアへの姿勢がある。最近、政権に辛口な司会者やスタジオゲストが相次いで降板を表明。国会前のデモや辺野古新基地建設のニュースが出しにくいという放送現場からの声も聞かれる。

■「健全な」民主主義
 総務相が停波の可否をジャッジすることは放送法の理念に合致しているのか。参考になる本を紹介していきたい。まず『法とジャーナリズム〈第3版〉』。著者の山田健太氏は「言論法」の第一人者。日本ペンクラブの言論表現委員長も務める。放送法の精神は次の文言に集約される。第1条である。「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」「放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」。つまり、政府は放送の自律・表現の自由を侵してはならないどころか、それを保障しなければならない。さらに、放送に携わる人間に、その職責をかけて、政府から「自立」し健全な民主主義のために仕事をすることを求めている。「健全な」という言葉が使われているのは、少数者の意見が尊重され、多様性の確保を忘れてはならないからだ。これこそが放送の果たすべき役割。しかし現実は簡単ではない。山田氏は、政権から干渉されない制度作りの必要性に言及する。
 『NHK 新版』には、公共放送がその使命を十分に果たせていないことへの警鐘が綴(つづ)られている。著者の松田浩氏は放送史の研究者。2年前籾井勝人氏がNHK会長に就任したときの記者会見で(国際放送においては)「政府が右というものを左というわけにいかない」と語り、3カ月後、個々の番組でも政府見解を紹介するよう注文をつけるなど、およそ公共放送のトップにふさわしくない発言を繰り返すことに危惧を覚え、籾井体制以後の問題を加える格好で大幅に書き換えた。ニュースや番組で両論併記を徹底させることは、権力の監視を弱め、メッセージ性の強い番組にブレーキをかけかねない。ロッキード事件報道や、「慰安婦」問題を扱ったNHKの番組改変など、過去の歴史がそれを物語ると松田氏は危機感をつのらせる。

■事実を報じる覚悟
 それにしてもマスメディアと市民との乖離(かいり)は大きい。『インテリジェンス・ジャーナリズム 確かなニュースを見極めるための考え方と実践』は、メディアは何をなすべきで、市民はいかに真実にたどりつけるかを説いている。記者のダナ・プリーストらは、イラク戦争帰還兵が陸軍病院で劣悪な環境に置かれていることを、衝撃的な写真や国防総省の文書をもとにワシントンポストで明らかにした。記事によって全米は大騒ぎとなり、連邦政府は病院改革に乗り出した。自立した調査報道による権力の監視というジャーナリズムの基本がそこにある。
 ジャーナリストの仕事は地を這(は)うようなもの。総理と宴を共にすることではない。放送法に書かれた「職責」は、覚悟や気概を意味する。放送は政府の顔色をうかがいながら行うたぐいのものではない。事実をもって視聴者に考える手がかりや新たな枠組みを提供する仕事なのだ。
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ながた・こうぞう 武蔵大学教授・ジャーナリスト 54年生まれ。専門はメディア社会学。NHKを経て現職。『奄美の奇跡』。

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