視線

自然の鉛筆 [著]W・H・F・トルボット [編集・翻訳]青山勝

2016年03月20日

『自然の鉛筆』第1巻「陶磁器」

 写真術の歴史におけるトルボットの功績は、1枚のネガから複数のポジを作成するシステムを打ち立てたことだ。
 写真集というものを最初に編んだのもトルボットだった。みずからが開発した写真システムの効用を示すために、写真を1枚ずつ台紙に貼り、自身で書いたテキストを添えて写真集に仕立てたのだ。テキストのなかには写真術小史も含まれている。
 題して『自然の鉛筆』。1844年から46年にかけて、6巻が発行された。初巻の発行部数286、全巻で24枚の写真が収められている。
 この世界初の写真集を、写真のサイズは原本に準拠しつつ、テキストを和訳し、書籍の体裁に変更を加えて翻刻したのが本書にほかならない。トルボットの書簡、また、畠山直哉をはじめとする現代のテキストも収められている。
 被写体は、建造物、植物、胸像、器物、レース編み、書籍のページ、絵、人物など多岐にわたる。こうした選択によって、トルボットは、複製技術としての写真の応用範囲の多くを先取りしている。
 そればかりか、テキストのなかで紫外線写真の可能性にまで言及している。トルボットが居を構えた古い修道院の写真にまつわるテキストで、修道女の幽霊にふれているのは、心霊写真出現の予感と読むこともできるだろう。
 高度のディテール再現能力ゆえに、撮影者が意識した以上のものを写し出してしまうことを強調しているのも興味ぶかい。「自然の鉛筆」の尖端(せんたん)は、写真における無意識の次元にまで届いていたのである。
    ◇
赤々舎・4320円

自然の鉛筆

著者:ウィリアム・ヘンリー・フォックス・ トルボット、マイケル グレイ、マイケル グレイ、青山 勝、青山 勝、畠山 直哉、青山勝、ヘンリー・F トルボット、金井 直、ジュゼッペ ペノーネ
出版社:赤々舎

表紙画像

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