CROSS OVER(週刊朝日)

生物はなぜ誕生したのか [著]ピーター・ウォード、ジョゼフ・カーシュヴィンク [訳]梶山あゆみ

2016年03月12日

■地球生命の全史を語り尽くす

 本書の真意は原題『A New History of Life』が端的に伝えている。まったく新しい視点で地球生命全史を語り尽くすこと。著者らの目論見は完璧に達成されている。
 地球環境と生命は互いに強い影響を与えながら46億年を歩んできた。そのダイナミックな歴史を探る学問を地球生物学というらしい。ウォードは大気の酸素濃度が生物進化の鍵を握っていると鮮烈に示した『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』(文春文庫)の著者。カーシュヴィンクはかつて地球が急激に寒冷化し凍りついたというスノーボールアース説の提唱者。このふたりの合作がつまらないはずがない。
 鍵は気温と大気中酸素だ。地球は何度も大気組成を激変させ、それが生物の大絶滅と進化を促してきた。酸素は生物にとって猛毒だが高エネルギー源でもある。二酸化炭素から酸素をつくるシアノバクテリアの繁栄は真核生物の誕生を促したが、一方で二酸化炭素の消費は温室効果を損ない地球凍結をもたらした。それでも複雑な多細胞生物はじわじわと氷下で進化してゆく。
 砂にクラゲをそのまま埋めても姿は残らないが、ナイロンストッキングの上に置いて砂を被せると跡がつく。カンブリア大爆発以前の柔らかな生物の化石が残っているのは、当時の海底にストッキングのような微生物の薄いシートが広がっていたからではないか。こう書かれるとたちまち光景が目に浮かぶだろう。足が横についた陸生四肢動物は身をくねらせて進むので胸が圧迫され、走りながら呼吸できず待ち伏せで捕食するほかないが、二本足なら低酸素環境に適応できるという説明も凄い。本書の途中で博物館の有名な壁画が紹介され、その典型的な恐竜画がいかに時代遅れか指摘されるが、次々とイメージが刷新されてゆくのは驚異的だ。どんな科学番組よりもくっきりと絵が見え、しかもそれは環境と生物が無理なく一幅に収まったタペストリーなのである。
 最後は人類の未来まで突き抜けてゆくこの一冊、科学とはこう書くのかと唸らせる傑作だ。

生物はなぜ誕生したのか:生命の起源と進化の最新科学

著者:ピーター・ウォード、ジョゼフ・カーシュヴィンク、梶山あゆみ
出版社:河出書房新社

表紙画像

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