CROSS OVER(週刊朝日)

日本酒テイスティング [著]北原康行

2016年04月05日

■味と香りに真摯に向き合う

 日本酒に関する本というと、全国の銘柄を紹介した「おいしい日本酒カタログ」的なものや、米の品種名、精白度、使用酵母などの基礎知識、各銘柄や蔵元のさまざまなエピソードが記されたウンチク系の本が多い。
 前者は、日本酒購入時に役立つ実用性や全銘柄を制覇するスタンプラリー的な楽しみがあり、後者は情報によって飲む際の楽しみを一層増幅させてくれる。「人は情報を味わう」と言われるほど、おいしさの感覚は情報に左右されるものだからだ。
 しかし本書は、そういった既存の本のパターンをまったく踏襲していない。新書という体裁でありながら、日本酒の味と香りに、極めてストイックに、真正面から向き合っている稀有な本なのである。
 本書がまず着目するのは地域。全国を「北海道・東北」「新潟・北陸三県」「関東甲信・静岡」「岐阜・愛知・近畿」「中国・四国」「九州」のエリアに分け、エリア別の特徴を書く。これに「大吟醸」「純米吟醸」「純米酒」「本醸造」といった、日本酒のタイプごとの特徴を組み合わせ、さらにこれらの情報をもとにしつつ、香りの高低、味の濃淡を意識して味わうことで、それぞれの日本酒がどんな酒であるかを見定めることができるというのだ。
 こう書くと学習参考書のような生真面目な本と思うかもしれないが、読み物としても面白く作られている。特に日本酒に合う料理の話は意外性があって興味深い。刺し身を塩だけで味わい、ワイングラスで冷酒を楽しむ著者の「“意識高い系グルメ”っぷり」にはちょっと引いてしまうかもしれないが、それも日本酒に対する愚直とも言える真摯さから生まれたものと思えば、むしろほほえましく感じるだろう。
 高級ホテルでソムリエを務める著者によれば、日本酒のテイスティングはワインより難しいそうだ。しかし、本書に真剣に向きあえば、その味と香り、そして風土が生み出した特徴などを明晰に把握しつつ、より日本酒を豊かに味わえるようになれる気がするのである。

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