傀儡(くぐつ)に非(あら)ず [著]上田秀人

2016年04月19日

■悪評判の武将を魅力的に描く

 現在の歴史・時代小説界で絶大な人気を誇る上田秀人の著書が、ついに100冊に到達した。その記念すべき作品が、本書だ。数ある戦国武将の中でも、きわめて評判の悪い荒木村重を主人公にした、歴史長篇である。
 摂津の池田家に父親と共に仕える荒木村重。苦労人の父親の薫陶と、幾多の戦いによって彼は、生き残ることを至上と考えるようになった。伸張する織田信長を見込みながら、下剋上を繰りかえした村重は、ついに城主にまで登りつめる。
 といっても、その勢力は、まだ小さなものだ。独裁的な信長の下で苦労しながら、村重は念願の摂津統一を成し遂げる。だが、信長の思惑が村重を追い詰め、彼の名を貶めることになる、有岡城の戦いへと向かわせるのだった。
 戦国ファンには周知の事実であるが、主君である信長に反旗を翻した村重は、1年間の籠城戦を経て、家族や家臣を見捨てて有岡城から逃亡。一族郎党が誅殺されるのを後目に、命永らえた。これにより、勇猛果敢な戦国武将だった村重の名は地に落ちたのである。
 作者は、そんな人物の人生を丹念にたどりながら、村重の人格がいかに形成されていったかを、詳らかにしていく。父親の代から続く、新参者という立場への不安。終わりの見えない戦いへの、重い感慨。それでも前に進むことを止めない、強い決意。乱れに乱れた時代を、一所懸命に生き抜く村重の魅力が、確固たる筆致で捉えられているのだ。
 しかも村重の信長に対する謀反には、実に意外な解釈が与えられている。ぼかした表現になるが、あまりにも意表を突いた解釈が、無理なく史実の中に納まったことに唖然茫然。凄まじいアイディアを易々と使いこなす、作者の手腕が素晴らしい。
 さらに村重を含む、3人の戦国武将を繋ぐ一本のラインが、最後には浮かび上がってくるではないか。多数の文庫書き下ろし時代小説で読者を驚嘆させる発想力は、本書でも健在。100冊目で、その実力を見せつけてくれたのである。

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