ベストセラー解読(週刊朝日)

ねこはすごい [著]山根明弘

2016年05月09日

■人との良き共存は

 世は猫ブームである。神保町には猫に関する本の専門書店ができ、猫カフェは定着し、テレビを見れば多くのCMに猫が登場する。実際、各家庭で飼われる猫の数は増加の一途で、ついには犬と同等になったらしい。
 山根明弘『ねこはすごい』は、動物学者らしく、まずは猫の身体能力の高さや感覚器の鋭さを紹介。自分の5倍ほど高く飛ぶ跳躍力、人間の10万倍もある嗅覚、しなやかな脊椎、人間の5倍の聴力……長く猫を飼ってきた私は愛猫たちとの日々を回想しつつ何度もうなずき、あらためてその祖先がリビアヤマネコであったことに思いをはせた。
 単独でそろりと獲物を狙う夜行性の肉食獣。目は暗闇に強く、色の識別が偏った猫たち。昼間はほとんど寝て過ごし、群れずにマイペースで生きる姿は、昔から飼い主たちを癒やしてきた。猫の治癒力は科学的に証明されていると本書にあったが、猫と暮らす者なら誰もが認めるところだろう。その寝姿をながめるだけで荒んだ気分がすっと和らぐから、ツンデレでも苦笑しながら尽くしてしまうのだ。
 だから、猫の殺処分問題には胸がざわつく。減少傾向とはいえ、2014年度で約8万匹もの猫が処分されている。それらのほとんどは野良猫なのだが、7年間も野良猫の生態調査をつづけた山根は、最終章で解決策の実施例を紹介する。人も猫も誰も幸福にならないこの問題を取りあげ、「人と猫のより良き共存のあり方」を問う山根の姿勢は、本書の最大の美点だと私は思う。猫ブームの渦中だからこそ、より多くの人にこの不幸な現況と対策を知ってもらう意味がある。

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