売れてる本

ハリネズミの願い [著]トーン・テレヘン [訳]長山さき

2017年01月08日

■人づきあいをそっと後押し

 日本ではあまり知られていないオランダの作家。過去に翻訳された2冊は、某通販サイトに高値で出品されている。ちょっと手が出ない、遠い本だ。
 そんなわけで『ハリネズミの願い』が初対面の人が大半だろう。贈ったり贈られたりして読者が増えている。友だちと仲直りできた人もいるとか。みんな中身に惹(ひ)かれているのだ。
 主人公はひとりぼっちのハリネズミ。自分のハリが大嫌い。ある日、動物たちを家に招こうと思い立つが招待状が出せない。起こるかもしれない悲劇を想像して怖くなるからだ。「親愛なるどうぶつたちへ ぼくの家にあそびに来るよう、キミたちみんなを招待します」と書いても、「でも、だれも来なくてもだいじょうぶです」と付け足してしまう。サイとダンスしてハリで刺したら、ゾウが家具を壊したら、キミはオレをハリで串刺しにして廃棄処分するつもりかとカラスに責められたら、とマイナス思考が止まらない。
 もう招待しないほうがまし。孤独もいいもんだと開き直る。すると頭の中のコフキコガネがチクリと刺す。「絶望していることが、ときにどれほど居心地のよいことか」。うすうすわかっているのだ。問題はハリじゃない。「助けて! 助けて! ぼくのなにがおかしいのか、だれか教えてよ!」
 臆病で人づきあいが苦手な人なら他人事とは思えないはず。次の客は大丈夫でありますようにと祈りたくなるだろう。そして、ついに最後の客が……。
 「存在」や「死」をめぐる哲学問答もあるが深入りしない。誰かを教え諭そうと気負うところもない。著者の人柄だと思う。ケニアでマサイ族の医師を務めたとき、娘にせがまれて物語をつくり始めたのが作家になるきっかけで、ご本人もたいそう恥ずかしがり屋だそうだ。
 本当は友だちがほしい。そんな人の背中をそっと押してくれるあたたかい本。挿画も装丁も可愛くて、うん、誰かにプレゼントしたくなった。(最相葉月=ノンフィクションライター)
    ◇
 新潮社・1404円=11刷4万5千部
 16年6月刊行。「心配性な主人公が日本人の共感を得て、友人関係に悩む学生から人生に疲れた中年層まで幅広く読まれている」と担当編集者。

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