あの日、世界の真ん中で [作]小鬼36℃

[文]南信長(マンガ解説者)  [掲載]2017年01月08日

表紙画像 著者:小鬼36℃  出版社:新書館

■スタイリッシュな絵で味わう劇的青春

 家が隣で幼なじみの茎太(けいた)と茎子(けいこ)は、憎まれ口ばかり叩(たた)き合う高校生カップルだ。全員が知り合いのような田舎町の〈狭くてクソみたいな世界〉に毒づく茎太だが、そこから逃れる術(すべ)を持たない。片や茎子は陸上短距離期待の星。高みをめざす彼女に、茎太は引け目を感じてしまう。
 設定もストーリーもベタといえばベタ。にもかかわらず鮮烈な印象を焼き付けるところが作者の非凡さだ。主要キャラはもちろん脇の大人たちにも味がある。シャープな線に光と影を効果的に使ったスタイリッシュな描画、テンポよくあけすけな関西弁の会話が痛快(標準語だったら相当クサくなるだろう)。作中人物にあえて〈まんがみたい〉と言わせるのもニクい。
 そしてもうひとつ注目すべきは、引きの絵の多さ。町の風景や学校の教室が見渡せることで、彼らが立っている場所、生きている世界が確かにそこにあると実感できる。
 訳あって好きなギターを封印していた茎太が、内なる衝動を解放したクライマックスは鳥肌もの。こんな劇的青春には無縁な人が多数派と思うが、何者でもない無力な自分への焦燥は普遍性あり。胸苦しさと疾走感に鼓動が高鳴る青春マンガの快作だ。
    ◇
 新書館 637円

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