役者人生、泣き笑い 西田敏行さん

[文]依田彰  [掲載]2017年01月08日

西田敏行さん=仙波理撮影 拡大画像を見る
西田敏行さん=仙波理撮影

■元首相演じ、時代に対抗したい

 心和む喜劇でも、シリアスな悲劇でも、一度見たら記憶に残る俳優の西田敏行さんが初の自伝を出した。「多くの人を喜ばすことが自分の楽しみ」と言い切る希代の表現者はいかに現れたのか。デビューから50年。昨年前半の長期療養を機に見すえた自らの来し方行く末を、本書で軽妙かつ誠実に語りつくす。
 養父母に無償の愛を注がれた福島での少年時代や、森繁久彌など大先輩が目をとめた即興性も興味深いが、そもそも役者とは何か。例えば「植村直己物語」の役作りで危険な北極に赴いたのはなぜか。「役者は、自分の個性を把握し、対象となる人物の思いを追認する意識も必要。ただ演ずる以上に、自分の人生哲学を織り込みながら役を膨らませることが大事なんです」
 一方、日本俳優連合理事長も務め、団塊世代の役者として「ケジメのつけ方」があるという。「役者も政治的にならなければ」とも。思いの背景には、原発事故後の悲劇的な現状や、国益優先で「表現の自由」をも奪われかねない近年の政治がありそうだ。
 「どうも戊辰戦争以来、妙に福島だけが苦しまされている気がして仕方がない」。愛する故郷が放射能に「汚染されている」と耳にするたびに胸が痛み、憤ったと明かす。「いまも故郷に帰れない方が多く、陰湿なイジメもあるのに、時代は命よりもカネ、愛より経済効率なんですね」
 そんな西田さんがいま最も演じたい人物は「かつて右も左も超えて日本人に愛された田中角栄元総理」だという。「清濁併せのむ人柄、毒性の強い役を演ずることで内なる日本人の心性を確認し、きな臭い時代に対抗したい。最近特に、戦争だけは絶対だめだからね、と語った養母の言葉が胸にしみます。ぼくはその遺志を継ごうと思う」
    ◇
 河出書房新社・1728円

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