あさは、おはよう―大澄剛短編集 [作]大澄剛

2017年01月15日

■いとおしく感じる普通の人々の営み

 帯を外すと現れるカバーの少女の笑顔が印象的な本作は、人生のワンシーンを鮮やかに切り取った連作短編集だ。ここに登場する人々はいたって普通で、穏やかな時を過ごしている。しかし、いかに普通の人とはいえ、その人生は穏やかで波風立たぬ日ばかりではない。六つの短編は時に過去へと時間を巻き戻し、登場人物たちのハードな体験を淡々と示す。
 じゃあ“普通”っていったい何だろう? 玄関を一歩入ったら、そこは別の王国だ。家庭ごとに違う王がいて、違うルールがあり、積み重ねてきた歴史も違う。そして、小さな王国を構成する家族ひとりひとりにも積み重ねてきた別の歴史がある。その差によって生まれる違いがいかほどか考えると気が遠くなりそうなほどなのに。
 それでも私たちは、愛娘(まなむすめ)の婚約者来訪にそわそわする父の気持ちも、シングルマザーの奈穂が思わぬギフトに涙してしまう気持ちも分かる。それは、著者が閉じた世界の話ではなく、当たり前すぎて見逃しがちな“普通”の上澄みを、キレイに掬(すく)い取って見せてくれるからだろう。本作を読むと「人の営みって、なんて愛(いと)しいんだろう」と思わずにいられない。(山脇麻生=ライター)
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 少年画報社 605円

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