きずなと思いやりが日本をダメにする [著]長谷川眞理子、山岸俊男

[文]永江朗  [掲載]2017年02月28日

精神論は有害だ

 心がけで背は伸びない。以前、養老孟司さんから聞いたことばだ。ぼくの座右の銘にしている。世の中、精神論は役に立たない。
 長谷川眞理子と山岸俊男の『きずなと思いやりが日本をダメにする』を読んで、精神論は有害だとあらためて思う。
 テーマとなるのは、少子化、空気といじめ、差別と偏見、グローバリズムと雇用など。並べるだけで気分がめいる。
 これを長谷川は進化生物学の知見で、山岸は社会心理学の知見で読み解く。聞き手・話し手の切り替えぶりが巧みで、一気に読ませる。
 人間が知性を持ったのは社会なしに生存できないから。人間の脳は他者の心を読もうとしてしまう。周囲の視線を気にしたり、集団内の裏切り者を見つけ出したりする能力を持つ。ふたりの対話からこうした特性が見えてくる。その起源は有史以前、農耕・牧畜をはじめた1万年前にさかのぼる。
 脳は心がけでは変わらない。ぼくたちの脳に染みついた特性に従って、社会をよりよい方向に変えていくことでしか解決できないのだ。
 たとえば、いじめを悪い心が原因だと考え、監視や厳罰や良い心の涵養で対処しようとしても意味がない。いじめとは、子どもたちが自主的に秩序をつくろうとするプロセスのなかで不可避的に起こる現象だと山岸はいう。
 具体的には、いじめの傍観者にならない教育、いじめを見たら「やめろよ」といえる教育、「やめろよ」といっても裏切り者と見なされない教育をしていく。教師の役割はその後ろ盾となることだ。
 いつまでも周囲の顔色をうかがい、びくびくしているようでは、世の中は変わらない。

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