ブーゲンビリア 小路啓之短編集 [作]小路啓之

2017年04月16日

■壊れた現実、何がマトモなのか

 小路啓之(しょうじひろゆき)の仕事を振り返ると、ふとトリックスターという言葉が思い浮かぶ。まんがの世界で、今の社会の中で、道化の役回りを引き受けて演じるかのような、奇妙にねじれた切迫感のあるコメディーを描く人。実は壊れてしまっている社会の中で、さらに一歩先に壊れてみせることで、今の現実を暴き出して、見せつけてくれるような作風。
 昨秋不慮の事故で逝去した著者を追悼して3冊の本が出た。連載中だった『雑草家族』『10歳かあさん』が未完のまま単行本化された他、短編集として本書が編まれた。内容は主に初期作品だが、どれも著者の本領がすでに存分に発揮されている。巻頭の「ファミリービジネス」は最も古い1999年の作品だが、今読んでも新鮮だ。バブル崩壊後の社会で、破産した一家のたどる道をコミカルに描き、せつなくも爽快な読後感。どの作品も、とてもマトモとはいえない世界ばかりだが、それを描けるのはマトモな人だけだろう。壊れた現実の中で、何がマトモなのかを体を張って見据え、自問自答し続けた人にしか描けない純朴な何かが、読む者の心の奥に突き刺さる。真に希有(けう)な才能というべき人だった。早世は、あまりにも惜しい。
    ◇
 集英社 680円



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